目を閉じて力いっぱい耳を塞ぐ。そうすることで私は、私を苦しめる嫌な世界から逃げ出すことができる。

部屋から聞こえるのは、女の人の湿った吐息と快楽を貪る甘い声。ぎしぎしと響く寝具の音。そして時折聞こえる、私が恋い慕ってやまない、ザンザス様の低く掠れた声。


ザンザス様の身辺警護を任されたときは、あんなに嬉しかったのに、今では地獄のように苦しい。


ザンザス様は毎日違う女の人を部屋へと連れて行く。どの人も私とは正反対で、白い肌やスラリと伸びた手足は、女の私から見てもイイ女、だ。



「・・っ」



甲高くも甘い声が廊下にまで響き渡る。それと同時に私はギュっと目を閉じて耳を塞ぐ。

痛むのは、力いっぱい閉じ塞いだ目か耳か。それともザンザス様を恋い慕う私の心なのか。

分からない。痛い、痛い痛い痛い。

心も身体も全てザンザス様に惹かれているのに、その心と身体が痛くて苦しい。恋い慕って、いつもザンザス様だけを見ているのに、どうして恋というものは上手くいかないのだろう。


どうしてこんなに私を苦しめるんだろう。




「ザンザス、さま」



さっきまでとは打って変わって静まり返った部屋の前で、ポツリと呟いた声は誰もいない廊下に静かに響き渡った。

響いた彼の名前が酷く虚しくて、ギシリ。胸が軋む音がした。




世界を
遮断する方法

(目を閉じ耳を塞ぎ)
(無に溶け込む)



きっと明日も明後日も、その次の日になってもこの胸の痛みは消えない。

だから私は明日も明後日も、その次の日も・・愛しい人の部屋の前に佇んで一人、目を閉じ耳を塞ぐ。