「お、あれ苗字じゃん」


体育の時間に教室に見えた人影。そこにいるのが苗字だと、すぐに気付いた。そういえば女子は今日、保健の授業だったっけか?と思い出す。

苗字は話すと面白いし優しいし目が離せない存在。離れていても苗字のことはすぐに見つけられる。おまけにどんな表情してるかだって見える。俺視力いいのな。

正直言うとすっげー苗字が好き。だから一日に何回もアイツのこと目で追うし、目が合うとその日は一日頑張れる。俺にとって特別な女の子だって分かってる。


「山本、さっきから何を見てるの?」

「おお、ツナ。あそこに苗字がいるんだよ」


見えるかー?なんて聞きながら教室の方を指をさすがツナには見つけられなかったのか首を傾げた。

んー、やっぱ見えねーか。

そんなことを考えながら胸の中では一安心。だって見えるってことはツナにとっても苗字は特別って事になる。さすがに友人と同じ子を好きにはなりたくない。それがツナなら尚のこと。


「まあ、ツナには見えねーか」


笑いながらツナの背中を軽く叩くと意味が分からないツナは怪訝な表情を浮かべた。そんなツナを笑って誤魔化すと、視線を再び教室へと向けた。


「お!」


不意に目が合い、嬉しくなって軽く手を振れば教室にいる苗字も手を振り返してくれる。


「よっし!今日の部活も気合い入れっかな!」


なんて一人で気合を入れてればツナの横からいつもと変わらぬ不機嫌な声。


「おい野球馬鹿、さっきから十代目に訳の分かんねぇ話をしてんじゃねぇ!」

「はは、訳分かんなくねーって」

「あぁ!?」

「まあまあ、獄寺君落ち着いて」


騒ぎ出す獄寺とは対照的に、苦笑い交じりに獄寺を宥めるツナ。ツナに抑えられたからか「十代目がそう言うなら…」と大人しくなった獄寺。さすがツナ。なんて思いながらまた教室を見上げると、苗字がグラウンドを眺めたままキョロキョロしているのが見えた。

苗字の視線に合わせるように俺も辺りを見渡すが、クラスの男子がうだうだ体育の授業をしているだけ。

何を探してるんだろうか?と首を傾げ再び苗字を見ると指をさして何か嬉しそうに笑っている。

指の先には……獄寺?

彼女は間違いなく獄寺を指差して嬉しそうに笑っている。何で、いや、まさか、一気に色々な考えが頭を周り焦る


「なぁ、獄寺」

「あ?」

「教室の所にいるの誰だか分かるか?」


どうか分かりませんように、友人と好きな子が一緒になるのだけは勘弁!と心の中で願いながら聞くと、獄寺は面倒くさそうに顔を歪めながらも目を細めて教室を見上げた。

分からないのか何度も教室を凝視して、ただでさえ鋭い目を更に細めまるで睨みつけるような目付きになった。


「あー……苗字じゃね?」

「…」

「それが何だよ?…っつーかなんだその顔は」


ちょっと心臓に鉛が入った気分。きっと今の俺、獄寺のことじっとりと睨んでると思う。獄寺にも分かるのか、遠くからでも苗字のことが。それはつまり、俺と同じ特別な想いがあるからなんだろうか。


「とりあえず、駄目だからな」

「は?何がだよ?」

「んー、内緒」



君は特別
(特別、)
(というより大好き)



特別だって想う、一緒にいたいって想う

大好きだって想うから、少しでも距離を近付けたくて。名前で呼んだら驚くかな、喜ぶかな、近付けるかな。

色々考えた結果、とりあえず呼んでみることにしようと思った。


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特別を意識して近付きたくなる

2008.xx.xx
2015.10.27修正