「え?」



頭が真っ白になった。それ以上が言葉にならなくて、告げられた事実に身体中が痺れて冷えていく。



「僕が駆けつけた時にはもう、手遅れだった」

「だって、そんな、だって‥‥彼は、」

「‥君は、見ない方がいい」



立っていることができない。べしゃん、とその場に座り込んでしまう。そんな私の前に片膝を付き視線を合わせてくれる彼の目を必死に見返す。そんなはずはない、と。目で必死に訴えるのに、返される視線は申し訳なさそうな、悲痛そうなものばかり。



「だって、嘘です‥そんな‥」

「数分だけ別々に行動したんだ‥、そしたら、その瞬間をつかれた」

「なんで、だって‥だって‥っ」



受け入れられない。そんなことあるはずがない。だって彼は、強くて、雲雀さんとよく一緒に任務をこなして。優しくて、誰よりも私を理解して一緒にいてくれる。彼が、私の婚約者が、そんな、ありえない、違う、そんなのきっと何かの間違い。



「名前」

「違う、そんなの嘘です‥」

「名前っ」

「‥‥うそ‥っ」



叫ぶような声を上げ、ぼろぼろと溢れ出した涙を抑えるように両手で顔を覆う。その瞬間私の身体は目の前の彼の腕によってぎゅうと抱きすくめられた。



「君の気持ちを共有してあげることは出来ない」

「‥‥」

「二人の思い出を背負ってあげることも出来ないし、下手な慰めは余計に君を傷付ける」



だけど、と言葉を続け少しだけ身体を離すと雲雀さんは涙でぐしゃぐしゃな私としっかり目を合わせた。



「名前の近くにいる。崩れそうになった時、手を伸ばしたらすぐ届く所にいる」

「‥‥っ‥」

「だから、ゆっくり受け入れて行こう。いきなりなんて僕だって無理だ。一緒に、ゆっくり現実を受け入れて行こう」

「雲雀、さん‥っ‥」



何年、何十年かかるかわからないこの感情への終結を。一緒に受け入れて行こうと彼は言う。誰かに共有して欲しいわけじゃない。慰めなんて必要ない。彼との思い出に干渉はいらない。

心の何処かで彼はもういないと、漠然と理解し始めた私を。からっぽになり始めた私を。支えようとしてくれる目の前の存在に、ただ縋るようにして泣いた。声を上げ、泣いた。







(君が終わり)
(君が始まった)




そう、君は愛されていた。こんなにも彼女から愛されていた。

いつだってお互いを想い合う二人が微笑ましかった。

僕には彼女のような存在はいなかったから。必要ないとそれまでは思っていたから。

いつからだろう。二人の関係を羨ましいと思ったのは。

いつからだろう。名前に想われるあの存在を。

殺したくなるくらい妬ましく思えたのは。



(彼を終わらせれば)
(僕は始まる)



ーーーーーーーーーーーーーー
サイトを始めた時から書きたいと思っていたお話し。
20120716