「一番星っ」



ほらあそこです!‥と空を指差す名前につられて僕も顔を上げると、そこには夕日のオレンジと夕闇の紫が混ざった空模様の中にキラキラと光る一番星があった。

見上げながら思う。一番星なんて見つけようと思えば毎日でも見つけられる物で、それほど珍しいものじゃないのに、改めてこうやって見てみると少しだけ嬉しいような気持ちになるから不思議だ。



「あ、早くお願い事しないと!」

「それって流れ星じゃないの?」

「だってほら、星に願いを、って言うじゃないですか」

「曲名じゃなかったっけ、それ」

「いいんです、一緒です!」



違うと思うけど‥とは口には出さず。楽しそうに両手を合わせ目を閉じる彼女から一番星へと視線を向ける。

そういえば小さいころから星に願い‥どころか流れ星にすら願掛けなんかしたことなかった。別に願わなくても欲しい物は手に入ったし、大抵のことは達成できた。きっとこれからもそうだ。わざわざ星に願う必要なんかない。

だから別に、願い事なんて‥



「明日も雲雀さんと一緒にいれますようにっ」



彼女の言葉に、まるで忘れたかのように心臓が止まる。でもそれは一瞬の出来事で、意識するころには心臓はいつも通り規則的な音を立てていた。



「‥なに、その願い」

「おかしいですか?」

「だって、なんか」



明日も太陽が昇りますように、みたいな。

そんな、あまりにも当たり前のことを願った名前。

離れるなんてありえない。少なくとも、明日唐突に離れることはない。名前が離れない限り僕は離れたりしない。



「星に願わないと不安?」

「そんなことないですよ」

「ならどうしてそんなこと星に願うの?」



もっと願うことはあるだろう。例えば‥欲しいものとか、勉強とか、成績とか、他にも色々。

理解できない、と言わんばかりの顔をする僕を見て名前は何やら楽しそうに小さく笑って見せた。



「当たり前のことを当たり前にしたくないんです」

「どういうこと?」

「雲雀さんが私の隣にいてくれることです」

「?」

「だってこうやって出会えたのだって、奇跡みたいな確率なんですよ私達!」



だから当たり前にしたくないんです。奇跡みたいに出会えたこの事実を大事にしたい。雲雀さんの存在は私にとって当たり前じゃなくて、奇跡なんです!ずっと隣にいてほしい人‥だから、だから私はこうやって願うんですよ!


願掛けなんかしたことなかった。別に願わなくても欲しい物は手に入ったし、大抵のことは達成できた。

‥でも、そうだ。そんな僕が祈るように願い、欲したのは、君だった。







(ずっと一緒にいたいから)
(何度でも願うよ)





馬鹿じゃないの


そう言うと名前は少しだけ寂しそうな顔をして見せた。

僕はそんな彼女から目を逸らし一番星を見上げる。するとそれは当たり前のように音となって口からこぼれた。



明日も名前と一緒にいれますように


振り返ると彼女はさっきまでの表情がまるで嘘のように笑っていた。



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一緒が当たり前なんてないんだよ、ってことを書きたかったんだけど上手く書けなかった…
20110717