結局あのあと二人揃って寝てしまったのか私だけが熟睡してしまったのか、どっちなのか分からないけど、私が目を覚ました時は丁度、時計の針がお昼を過ぎたときだった。

お腹に回されていた腕はない。綱吉さんが私より早く起きたことをぼんやりと認識しながらベッドから起き上がる。軽く目を擦り見渡せば私以外は誰もいない広い部屋。

起きたとき隣にいて欲しかった、なんてわがままなことは思わない。最初に起きたとき抱きしめていてくれただけでも、私は十分嬉しかったから。今だって満たされているもの。




「んー・・っ」




一回伸びてから、はあと息を吐き出す。さてと、どうしようかな・・。

綱吉さんがいないのに部屋の外へ出ることなんて出来ず。少し乱れた髪の毛を手で整えながら考える。

綱吉さんはお仕事かな?

頻繁にお店には来てくれてたけど、もともと忙しい人だったし・・それに、やっぱりマフィアのボスである彼は獄寺さん達と比べると仕事の量も多いのかもしれない。




「・・」




マフィアのボス・・告げられてからもうだいぶ時間は経っているけど、やっぱり実感が沸かない。


この広いお屋敷にいる人はみんなマフィアなのかな?・・あれ?ということは獄寺さんや山本さんもマフィア?え、だけどあんな雰囲気の人なら日本にはたくさんいるし、私の知り合いにも似た雰囲気を持つ人はたくさんいた。

獄寺さんは性格がちょっとだけキツそうだけど・・。山本さんみたいな優しいお兄さんなら幼稚園の先生とかにいそうな感じがする。


なんだかここにいる人達は私の想像してたマフィアとはだいぶ違う。恐れとか、畏怖の念をまったく感じさせない。

違う。最初からそういう人達だったんだ。どこにだっているような、優しい人。


それなのに少しでも恐怖を感じてしまった自分が恥ずかしい。あの人達は・・綱吉さんはそんな人じゃなかった。

触れ合って、話して、ようやく分かることなのかもしれないけど。


触れ合って話した結果としては、私はやっぱり綱吉さんに対して、あの時感じた恐怖よりも、好きという気持ちの方が大きい。意識すればするほど、大きくなっていく。

悩みに悩んで出した答えがシンプルすぎて少しだけ苦笑いを浮かべた。




「そういえばマスターは知っていたのかな・・?」




思い返してみればマスターと綱吉さんは昔から知り合いみたいだし、獄寺さんのことをお店に呼んだのもマスターだったし・・。

あれ?マスターって何者・・?




「・・ちょ、ちょっとだけ不思議な人だとは思ってたけど、なんだかもっとミステリアスな人に・・!」



「あれ?なんだ起きてたのか」

「え?あ・・つ、綱吉さん・・!」




一人ベッドの上で悶々とマスターのことで頭を悩ませていたら、突然現れた綱吉さんに慌ててピッと背筋を正した。




「この時間に言うのも微妙だけど、おはよう」

「おはようございます・・!」

「よく寝れた?」

「はい、もちろん・・!あの、私なんだか寝すぎてしまったみたいで・・」

「ああ、いや俺もさっき起きたところなんだ」

「そ、そうだったんですか・・」




ということは、私の寝顔はばっちり見られたんだろうな・・す、少しだけ恥ずかしい。




「そうだ、帰りは俺が送るから」

「え?」

「実はマスターなんだけど、昨日先に帰ったみたいで」

「・・え!?」




少し苦笑い交じりに頬を掻く綱吉さんの言葉に私は目を開いて驚いた。

先に帰った、って私を置いて!?・・いやでもマスターがここに来た理由は昔の友達に会いたいからってだけで、私は言ってしまえばおまけのようなもの。・・でも、言ってくれれば私も一緒に帰ったのに・・!




「どうかした?」

「私はてっきりマスターもここに泊まってるものだとと思っていたので・・」




そう言ってベッドの傍に立つ綱吉さんの顔を見つめる。

こうやって一緒にいられるのは半分以上マスターのお陰なんだな、って再認識した。次マスターに会うとき何かお礼した方がいいのかな?でもマスターのことだから「気にしなくていいよ」って穏やかに笑うんだろうな。


私が黙って見つめていたからか、不思議そうに「何?」と呟く綱吉さん。

私のちょっとした表情にも反応してくれる綱吉さん。これは近くにいないと出来ないことで、一緒にいるからこそ気付けることだと思う。

今私たちは近い距離にいるんだなって思ったら心の中がふんわりと暖かくなって私は、はにかむように曖昧に笑って「何でもないです」と答えた。






「忘れ物ない?」

「はい、もともと荷物なんてほとんどなかったので大丈夫です」




玄関、と呼ぶにはあまりにも広すぎる場所。時間も時間だったので今日は学校に行くことは諦め、直接家に送ってもらうことになった。




「綱吉さんが運転するんですか?」

「もちろん」

「そうですか・・」

「俺が運転するのは不安?」

「いえ、そういうことじゃなくて・・!なんとなくイメージが・・!」

「イメージ?」

「はい、綱吉さんのイメージって運転するよりも、後部座席に座って送られるイメージだったので・・!」




そして綱吉さんを乗せた車を運転するのは獄寺さんというイメージ。山本さんも、かな?




「俺だって運転ぐらいするよ。店に行く時は俺一人だろ?」

「そう言われると、そうなんですけどね・・!」




こんな大きなお屋敷に住んでいて、しかもそこのトップだと言われるとやっぱり運転するイメージよりも、送られるほうがそれっぽく思えてしまう。




「じゃあ俺車とってくるから少し待ってて」

「あ、はい。分かり」



「ふざけんな、ダメツナ」




分かりました、と答えるよりも早く背後から響いた声が私の言葉を遮った。

驚いて振り返れば、そこには綱吉さんと同じ黒いスーツに身を包み頭には黒のハットを乗せた男性と、申し訳なさそうに顔を顰めた獄寺さんが立っていた。




「な、リボーン・・!?」

「りぼ・・?」

「この数日お前のせいでどんだけ仕事が遅れたと思ってんだ?」

「それは・・!」

「上手くいったならいったで、さっさと仕事に戻りやがれ」




わー、とっても怖そうな人だ。年齢的には綱吉さんよりも上みたいだけど、誰なんだろう?

言い合う二人の声を聞きながらぼんやりとスーツの男性を眺めていたら、困ったように眉間に皺を寄せた獄寺さんが私の隣に並んだ。




「・・十代目の家庭教師のリボーンさんだ」

「家庭教師、ですか・・?」

「ああ、中学のころから十代目についてる」

「そうなんですかあ・・」




言い合う二人。どこかリボーンさんのほうが綱吉さんを制しているように見えるけど、綱吉さんもなかなか負けてない。

きっと中学のころからこんな感じだったんだろうな、と思い獄寺さんと一緒に二人を眺めていたらリボーンさんの視線が不意にこちらに向いた。




「獄寺、お前が送れ」

「は、俺ですか・・!?」

「おいリボーン!」

「お前今日は別に仕事ねぇだろ?」

「まあそうですが・・」




獄寺さんが言葉を濁しながらチラリと視線を綱吉さんへ向ける。




「おい、お前」

「え?」




私は送ってもらえる身分だから贅沢なんて言えるわけもなく、ことの流れを眺めていることにしよう!・・・・と思っていたら突然話しをふられた。




「別に獄寺でも構わないよな?」

「私は別にどなたでも・・」

「ツナの馬鹿が仕事を溜め込んだせいで周りの連中が全員迷惑してるんだ・・そろそろキレる仲間も出てくるかもしれない」




どこか情に訴えかけてくるような視線を向けられる。

仲間の人が怒り出してしまうかもしれないという大変な状況なのに、綱吉さんに送ってもらうなんて・・・・なんだろう、ものすごく申し訳ない気がしてきた。




「獄寺でもいいよな?」

「え、っと・・是非、獄寺さんでお願いします」

「名前!」

「いい子だ」




綱吉さんが抗議するように私を呼んだけど、リボーンさんはその声に取り合うことなく私の頭をポン、と一回撫でた。

チラ、と綱吉さんを見ればどこか怒ったように私を見る綱吉さんと目が合った。




「し、仕事はちゃんとやらないとダメです!」

「だからって勝手に決めるなよ」

「だって仲間の人が怒る、って・・!」

「俺がボスなんだ。それぐらい何とかする」

「相手は雲雀だぞ」

「・・・・何とかする」




どこか引き攣った表情を浮かべる綱吉さんと、楽しげに口元に笑みを浮かべるリボーンさん。




「あの、次は綱吉さんが送ってください・・!」

「え?」

「だから今日は溜めてしまったお仕事を頑張ってください・・!」



そう力を込めて必死に言うと綱吉さんは一回、大きく溜息をついたあと眉を下げて笑みを浮かべた。



「約束だからな」







(また会えるということ)
(一緒にいられるということ)





ここに来て、全部伝えることが出来て本当によかったと思う。

ああ、やっぱりマスターには何かお礼をしたいな。