「やあノーノ、久しぶりですね」

「ああ、カルド・・懐かしいな」



その名前を呼ばれるのは久しぶりですね、と彼は懐かしそうに目を細めながら呟きながら九代目に近寄る。




「今は、ほとんどマスターと呼ばれていますから」

「そうか、そうだったな」



彼の切り盛りする喫茶店を思い出したのか、九代目はクスクスと笑うとソファに座るように促した。




「あの二人は?」

「ああ、隼人たちなら席を外してもらってます」




二人で話したいことでしたから、とマスターが微笑むと九代目も、そうか、と呟きながら目を細めた。

懐かしい友人に会ったもの同士だからこそ感じ取れる空気。確かに二人以外の人間がいるのは、少し場違いかもしれない。














「ふむ、相変わらず美味いな」

「そう言ってもらえると、淹れたかいがありますね」

「若いころはケーキなんて作れなかったのになあ」

「お恥ずかしい」




彼が用意したコーヒーとケーキを食べながら、昔のことを懐かしそうに語る楽しそうな九代目と、恥ずかしそうに眉を下げるマスター。

大荷物だったが、マスターが持ってきたものは全て九代目に喜んでもらえたようだった。




「それにしても突然だったな」

「申し訳ありません」

「いや、私も久しぶりに会いたいと思っていたから、気にしなくていい」




九代目は一口コーヒーを含むと、ふう、と一息ついた。

至極穏やかな時間だが、マスターがここに来たということは何か用事があったということ。用件はなにか?と聞きたいところだが九代目には彼の用件がほとんど分かっている。




「随分と可愛らしいお嬢さんじゃないか」

「おや、会ったのですか?」

「いいや、私の直感だ」




その言葉にマスターは苦笑いを浮かべる。直感だけでは可愛いかどうかは分からないだろうに。




「彼女が綱吉君の?」

「・・そんなところです」




呟いて、今ごろあの二人はちゃんと話すことが出来ているのだろうか、逃げ出してしまっていないだろうか、と心配になる。

名前も弱ければ綱吉も弱い。お互いが弱いもの同士だからこそ心配になる。だがどちらも芯は強い。譲らない気持ち、頑固なまでに貫き通す自我。

会いたい、と気付いた瞬間、なりふり構わず店まで走ってきた名前。

現れない、と告げた瞬間から存在を消してしまったように店に近づかなくなった綱吉。


一見似ているように見えて、正反対の二人。




「彼女はデーチモのことを怖い、と感じたそうです・・」

「ほう・・」

「彼女は一般人・・今まで平和な世界で生きてきましたからね」

「一方相手は人の命を奪うマフィア・・世界の違う存在、か」




世界が違う。言ってしまえばそうなのかもしれないな、とマスターは一人考えた。

平和で、穏やかな生活をしてきた名前と、血に塗れた世界を見てきた綱吉では価値観そのものが違うかもしれない。


出会うことが間違いで、恋をすることなど罪にも等しいかもしれない。




「だが、カルドが綱吉君のために連れてくるくらいだ・・素敵なお嬢さんなんだろう?」

「そうですね・・彼女は、とても優しい」

「優しい?」

「はい」




不思議そうな顔をする九代目に、マスターは名前を思い浮かべてニッコリと微笑んだ。




「怖い、という感情は一見とても残酷に聞こえますが・・とても素直な言葉です」

「・・」

「デーチモの素性を知って、怖いと思った名前ちゃんはとても素直です」

「そうだな、」




異質な存在へ抱く恐怖は当たり前の感情。作り笑いを浮かべて、怖くない、と笑って偽るものよりずっといい。




「偽ったまま、そばにいては・・いつか綱吉君が傷つくことになる」

「はい、だからこそ私は彼女が怖い、という感情を持ったことに喜びすら感じます」

「・・」




怖い、と感じたということは、偽ることなく・・本当の彼を受け止めようとしてるから。


その感情は・・好きだからこそ感じてしまった、素直で優しい感情。相手を想う心。


愛するが故に感じた恐怖なら、その感情は次へと進む階段になってくれる。


その階段を上がっていくか、そこで諦めてしまうか、どうするかは彼女しだいだった。だからあえてマスターは聞いた。


名前ちゃんはどうしたい?と。




「彼女が素直な子で本当によかった、と私は思います」

「そうか」




感じてしまった恐怖に罪悪感を覚えて、隠そうと必死で。だけど誤魔化せない感情に戸惑って、悩んで、泣いて。泣き続けて。

彼に会いたいと願った。






(どうか彼女の気持ちが)
(少しでも彼の心に届くことを)




しかし、そんなにいい子なら・・

なんですか?

私の息子・・ザンザスの嫁にどうだろうか?

ダメですよ、ノーノ