しばらくして車は大きな建物の前で停車した。窓越しに見えるその建物は、日本の高級なホテルとかマンションよりもずっとずっと大きくて、そのあまりに現実離れした大きさに感嘆の声をあげてしまう。




「す、すご、い・・」

「名前ちゃん、ここからは一人でどこかに行ったら駄目だよ?」

「え?」



マスターの言葉と雰囲気になんともいえない感情を覚え顔が引き攣った。




「ほら・・ここはとても広いから」

「あ・・そ、そうですよね・・!」




こんなに広い所で迷子になられたら見つける方が大変なんだろうな、うん!と引き攣った顔を誤魔化すように一人うなずく。


この広い洋館。ここに彼がいるんだなぁ、とぼんやりと見上げる。

すごく長い時間を過ごしたような気がする。錯覚でしかないんだけど、何十年も綱吉さんと会っていなかったようなそんな感覚。




「獄寺ー!」

「あ?・・遅ぇぞ、山本」

「わりぃ、わりぃ!時間、間違えちまった」




ぼんやりと考えていた思考を遮って顔を向けると、そこには黒い短髪の人が両手を合わせて銀の人に謝っている。

銀の人には獄寺という苗字があったらしく、すごい名前だな。とつい獄寺さんをまじまじと見つめた。




「久しぶりだね武」

「マスター!お久しぶりです!」




マスターが懐かしげに挨拶すると、同じように笑顔で挨拶する黒い短髪の人。顔立ちからして、きっと私と同じ日本の人だよね。

懐かしそうに、楽しそうに談笑を続ける三人を私は遠巻きに眺めていた。こんな楽しそうに笑うマスターを見るのは初めてかもしれない。

お店のお客さんにはいつも笑顔だけどこの笑顔は・・もっと深い仲のような。


そんなことを考えていたら、獄寺さんが談笑に区切りをつけた。




「山本、お前は九代目のところに行け」

「ん?お前は来ないのか?」

「・・十代目に客がいるんだ」

「ツナに客?」




コイツだ、と言われいきなり二人の視線が私に集まった。話しをふられた私はびっくりして身体が強張ってしまう。

短髪の人はいま私の存在に気が付いたようで、気付かなくてごめんなー、と謝りながら私の前までやってくる。




「あ、の・・こんにちは」

「へー、こんにちは」

「俺はコイツを十代目のところに送り届けてからそっちに行く」

「おう、わかった」




ニコニコと、しかしジロジロと私のことを見る彼の視線が痛い。表情は少年のようだけど、こう背の高い人に見下ろされるのには慣れてない。




「あ、ごめんな!ツナに客ってのが珍しくてつい、な」

「は、はあ・・」

「名前は?」

「名前、です・・」

「そっか、よろしくな!」

「気が済んだらさっさと行け山本」

「りょーかい、っと」




そう言って私から離れ、マスターの荷物を持つ彼はどうやら山本さんというらしい。

ツナ、きっと綱吉さんのことだと思うけど・・この人たちはすごく綱吉さんと仲がいいのかもしれない。

友達なのかな?と、これから私を案内してくれる獄寺さんを見る。


・・あれ?もしかして、私はここからマスターとは別行動?




「ま、マスター・・!」




こんなにも早く別行動になるとは思っていなかったので少し不安になり、焦ったように呼ぶと、マスターは眉を下げて微笑み、私の傍に来てくれた。




「いいかい、名前ちゃん」

「は、い・・」

「これから君はデーチモに会いに行く。私はそばにいることは出来ないけど・・」

「・・」

「デーチモに名前ちゃんの言いたいことを全部言うんだ。訂正したいことも否定したいことも、後悔も全部、全部ね」

「はい、がんばり、ます・・っ」




力強くそう言葉を返すと、マスターは私の頭を撫でて、頑張りなさい、と小さく呟くと私からゆっくり離れていく。


不安が完全に拭われたわけじゃないけど。もうあの時みたいな結果にしたくはないから。



















(色んな人の気持ちを)
(無駄にしないように)




近くて遠くて、酷く寂しげだった大空のような彼

あなたのもとまであと少し