「注意力散漫、職務怠慢、集中力はまるでなし」

「・・悪い」

「なんだ、お前ただのダメツナに戻ったのか?」

「・・」




何も言い返すことのできない俺にリボーンは呆れたように溜息をつくと、俺のミスだらけの書類を持って部屋を出て行った。




「・・はあ」




片手で頭を抱えてうなだれる。握る気の失せたペンを適当に放り出した。


ここの所ずっとこの調子だ。何をやっても上手くいかない。こういう書類を整える仕事すら満足にこなせない。

最近は他のファミリーとこれといって険悪な状態ではないから戦闘することはない。それが今の俺には救いだ。


こんな状態で戦線に行ったら間違いなく、殺される。




「・・リボーンもさすがにそろそろキレるよな」




昔から世話になっている家庭教師だけあって、怒らせたときの怖さは人一倍理解しているつもりだ。


こんな状態じゃいけないことは分かってる。何より周りに示しがつかない。


思えばここ最近、マフィア同士の抗争がないのは、俺がボンゴレを裏切ったファミリーのボスを殺したからかもしれない。

あの一件でボンゴレに対してほとんどのファミリーが意見しなくなった。



俺が、殺したおかげ。



その響きに吐き気を覚える。殺したくなかったなんて甘い言葉はあの人に失礼だ。だけど実際それが俺の本音だ。

殺したことで、俺はかけがえのないものを失くしたような気がして、胸にぽっかりと穴が開いた。




「・・」




でも、それだけがこの不調の原因じゃない。

これはファミリーもマフィアも関係ない、俺の感情の問題。名前に対する俺の気持ちの問題。




「何してんだ、俺・・」




違う。何がしたかったんだ俺は。


一般人の、何も知らない彼女に俺みたいな汚い奴がいる世界の話しをして、俺は一体彼女に何を求めたんだ。



笑顔を見れるだけでよかったじゃないか。それだけでよかったじゃないか。

どうしてそれ以上を求めたんだよ。



あの雨の日に、怒りとか懺悔とか後悔とか、そんなぐちゃぐちゃな気持ちでいっぱいだった俺に声をかけて微笑んでくれた。


ただ単純に救われた気がした。

彼女の笑顔に俺の過ちが許されたような気がした。胸に開いた穴が塞がっていくような気すらした。


偶然の再会をして、いつの間にか彼女と過ごす少しの時間が俺のなかで惜しいものになってた。


会えることが嬉しくて、会えない日は何をしているのか気になって。




気付いたら自分じゃどうしようもないくらい彼女が愛しかった。




愛しくなればなるほど、心が落ち着くはずの名前の笑顔に胸が痛くなった。

俺と彼女は違う世界の人間。マフィアと一般人。簡単には分かり合うことのできない関係。近くにいても遠い存在。

それが酷くもどかしくて、もっと近づきたくて。できれば俺の隣で笑っていてほしかった。



だから話した。

名前なら笑顔で受け入れてくれるんじゃないか。全部許してくれるんじゃないか、って勝手に思って、全てを話した。



だけど。






『わ、たし・・っ』






揺れた瞳、震えだす彼女の身体。笑顔は消え、ほんの一瞬だけ恐怖に染まった彼女の表情。



俺が、怖がらせた



その事実を知った瞬間、今度はやがて彼女から紡がれるであろう拒絶の言葉が怖くなって、名前から逃げた。


彼女の返答も聞かずに、逃げた。






「ほんと、何してんだよ、俺は・・っ!」









(俺がいなくなってお前は)
(雨の中で一人、なにを思ったんだろう)




許されたいから、受け入れてほしいから、と好きなだけ話しておきながら

怖くなった途端にお前を置いて逃げるなんて

そんなの自分勝手でわがままなだけだ