名前ちゃんは、どうしたい?
マスターの言葉に対する、答えが見つからない。
みっともなく泣いて、全て吐き出した私の頭を優しく撫で、慰めてくれたマスター。
綱吉さんのことを、ほんの一瞬でも怖いと思ってしまった私に、それでいい、それが普通だよ。と優しく受け止めてくれたマスター。
あの日から、もう一週間たったというのに、私は未だに自分がどうしたいのか分からないでいた。
「ねぇ、私は、どうしたい・・?」
自分の心に尋ねるように呟いた。当たり前だけど、自分の心から返事はなくて、少しだけ苦笑い。
このままじゃいけないのは分かってる。
泣いて、全てを吐き出して、受け止めてもらって、慰められて。
そのまま終わりにしていいはずがない。
それは分かってる。分かっているけど、自分がどうすればいいのか分からない。
何を言えばいい?どんな顔をすればいい?どうしたらいい?
「はぁ・・」
ここの所、毎日このことばっかり考えては、いつも結果が一緒。
綱吉さんのことを思い出すと胸が切なくなって、うっかり泣いてしまいそうになる。
だから涙が出そうになったら、必死に歯を食いしばって涙を耐えてやり過ごす。
それは嘘じゃないのに、自分がどうすればいいのか分からない。負の感情がグルグルとずっと廻って、エンドレスリピート状態だった。
「はぁ・・」
「どうしたの?ため息ばっかりついて」
「ひゃっ!?」
「え、え、なに!?」
横からいきなり声を掛けられて、突然のことに声を上げて驚けば、私に声をかけた本人も私の声に驚いて声を上げた。
なんだろう、この恥ずかしい状態・・。
「なんだ、ルシオ君か・・ビックリしたぁ・・っ」
「ご、ごめん、そんなに驚くとは思わなくて・・!」
ルシオ君は申し訳なさそうに両手を合わせて誤るから、私は、いいよいいよと笑って返した。
「ルシオ君、今日はもう授業終わり?」
「あ、うん。帰ろうとしたらベンチに名前ちゃんがいたから」
声かけたんだ、とニコニコ笑う彼に私もつられて笑った。
「それで、ため息吐いてたけど、どうかした?」
「うん?んー・・」
「?」
「あのさルシオ君は、恋人いたっけ?」
「え、なに突然・・!あ、もしかして、そういう悩み!?」
顔を真っ赤にさせて、しどろもどろするルシオ君に、まずいことを聞いてしまったかと、少し申し訳なくなった。
「あ、ごめんね・・言いにくかったら別にいいよ?」
「いや、突然だったからちょっと驚いただけだよ」
「変なこと聞いちゃったね・・」
「あー・・えっと、ね」
「うん?」
何か考えるように、あーとか、うーとか、唸り声を上げたあと、ルシオ君は少しだけ照れくさそうに頭を掻いて、ゆっくりと口を開いた。
「いるよ、恋人・・」
「え、ホントに?」
「うん・・いると言っても、ロシアだけどね」
「あ、遠距離恋愛?」
そうなるかな、と照れくさそうに呟くルシオ君は、なんだか可愛らしくて笑みがこぼれた。
「相手はどんな人なの?」
「・・お、俺より年上」
「うそ!」
「ほ、ホントだって・・!」
「そっか・・でもなんか、ルシオ君っぽい」
そう笑って言えば、そうかな?とルシオ君が呟いた。
少し子供っぽいルシオ君だから、相手の女性が年上と聞いて妙に納得してしまい、クスクスとつい笑うと、笑わないでよ・・!とルシオ君から抗議の声。
それを聞いて、私はまた笑ってしまった。
「でも、そっか、遠距離なんだぁ・・」
「うん」
「寂しい?」
「まぁ、それなりに・・」
会えないのは、やっぱり寂しいよ。
と悲しげに呟くルシオ君に、心が少しだけ痛んだ。
会えないのは寂しい。
そうかもしれない。どんな理由があっても好きな人と会えないのは、一番寂しいかもしれない。
好きな人と、会えないのは・・
「ねぇ、ルシオ君は彼女さんに会ったらどうしたい?」
「え?」
気付いたら口が勝手に動いた。
ルシオ君と私は状況は違っても、もしかしたら気持ちは似ているんじゃないかと思ったら口は勝手に動いていた。
「何を言ってあげたい?どんな表情をして会いたい?」
「名前ちゃん、落ち着いて・・っ」
とまらない。
ルシオ君が困っているのは分かるけど口が次々と言葉を紡いで止まらない。
この疑問はずっと自分に向けていた疑問。
これではルシオ君に答えを頼ってしまっているみたいだけど、なんでもいい。参考にできるような意見が欲しかった。
「そ、そうだなぁ・・」
「うんっ」
「いろいろ話したいし、買い物とか付き合ってあげたいし、したいこともたくさんあるけど・・」
「うんっ」
「そうだね、今はただ・・」
答えを急ぐように促す私に、ルシオ君は困ったように笑みを浮かべ、ゆっくりと口を開いた。
ただ、会いたいよ
(あいたい) (あの人に、ただ会いたい)
「名前ちゃん・・?」
黙り込んでしまった私を心配そうに覗き込む彼に、静かに言葉を返した。
「ルシオ君・・」
「ん、なに?」
「それは参考意見じゃなくて、答えだよ」
そう言って、へらっと力なく笑えば、ルシオ君は悪戯っ子のように私に微笑み返した。
答えは、見つけたよ。
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