これ、俺のじゃないんだ・・


私と初めて出会ったとき、彼はそう言った。

瞳は後悔の色でいっぱいだった。頬についていた血の色が、今でも鮮明に残ってる。


あのとき、私は綱吉さんを拒絶しなかった。逃げもしなかった。放っておくこともしなかった。

どうして、初めて出会ったときは出来たことを、あの日できなかったんだろう。どうして彼を笑って受け入れてあげることができなかったんだろう。




「怖くなんて、なか、った・・っ」

「・・うん」

「少しも怖くなんて、なかった・・はず、なのに・・」




あの日の綱吉さんの言葉が頭を離れない。




『俺は、人を殺す』



彼は人の命を奪う。それは一体どういうことなのか。



『仲間のためなら、俺は何度もそれを繰り返す』



決してやってはいけないこと。



『俺は・・そういうやつだよ』



そのやってはいけない行為を、繰り返してきた綱吉さんの心は。どれだけ傷ついていたのか。

私には想像するしか出来ないけど。それは酷く悲しくて重たい。



「つな、よしさんを・・」

「・・」

「受け入れて、あげたかった・・っ」



あの日、全てを私に打ち明け、悲しそうに微笑む彼を受け入れてあげたかった。なのに私は彼の全てを知って、私は・・



「名前ちゃんは、怖かったんだね」

「・・っ」

「大丈夫、それが普通なんだよ」



違う、違う違う違う。


必死にマスターの言葉を遮ろうと首を横に振る。なのにマスターは、そんな私を見て困ったように微笑みながら頭を撫でてくれる。



「いいんだよ、それで」

「ちが、うっ」



そんなことを思うなんて、駄目だ。あっていいはずがない。



「だっ、て・・」



初めて出会ったときは、怖いなんて思わなかったのに。拒絶なんかしなかったのに。

綱吉さんから全てを聞かされて、いまさら怖いと思うなんて。いまさら拒絶をするなんて。


そんなの・・





裏切りにも等しい


(体が震えたのも涙がこぼれたのも)
(そういうことだったの?)




それなのに私はまだ綱吉さんのことを考えてる。

怖いなら拒絶すればいいのに。

あらわれないことを喜べばいいのに。

それなのに、私は・・私は。