最初から強くなんかなかったんだ。
本当の俺はダメな奴で弱くて全てに逃げ腰で。
全てに染まりつつ全てを飲み込み包容する大空、なんてボンゴレの使命を拒絶したこともあった。
でも少しずつ友達や仲間ができて、自分にも出来ることがあると知ることで自分が強くなっていく気がして嬉しかったんだ。
『お前がボンゴレの十代目か』
その人は俺がイタリアに来てボスという立場についたとき知り合った。
違うファミリーのボスなのに人当たりがよく明るいその姿はディーノさんに似ている気がした。
まだ未熟な俺からすればその人は十分尊敬に値する人だった。
余裕のある態度と飄々とした雰囲気に惹かれていた人も多かったし、その人の部下の大体は彼の人柄に惹かれたらしい。
『綱吉もっとしっかりしねぇとやってけねぇぞ』
ボスという立場を長く経験してきたその人から俺は沢山のことを教わった。
酸いも甘いも噛み分けた人だからこそ、紡がれる言葉には説得力があった。
『ボスだからこそファミリーを守らなきゃいけないってのもあるが、一番大切な人は死んでも守ってやれよ』
残念ながらそんな相手のいなかった俺はコーヒーを啜りながら、はぁ・・とだけ答える。
俺の返答が気に食わなかったのか怒り出すその人に苦笑いをしたら『いつかお前にもわかる!』と断言していた。
そんな人柄だから俺だけじゃなく他の仲間ともそれなりに仲がよくて、受け入れられた存在でもあった。
『・・仲良しこよしじゃやっていけないこともある』
そう聞かされたのはいつだっただろうか。いつもと違う真剣な顔と、思いつめたような瞳。
普段の飄々とした態度とは正反対で俺には何も言えず、ただ黙っていた。
『調和を乱す者には制裁を、裏切り者には報復を・・』
言葉の意味が分からなくてなんとも言えない表情をする俺にその人は、忘れんなよ!といつも通りに笑うから、どこか誤魔化されたような気もしたけれど頷くことしかできなかった。
その日からパタリとその人はボンゴレに来なくなった。
もともと別のファミリーのボスだから忙しいのだろう、またその内ひょっこりやって来るだろう、と考え俺はこれといって気にしていなかったけど。
それから少し経った頃だった・・その人の率いるファミリーがボンゴレを裏切ったのは。
その話しを聞いて周りの静止も聞かず飛び出した。
信じられなかった。なんでも良いから話がしたかった。
彼のファミリーの本部に着いたとき俺に対して厳戒態勢をしくファミリーの姿。
邪魔をするものは全て消した。ともかく彼と話がしたかった。この気持ち悪い状況を嘘だと笑い飛ばしてほしかった。
『早いな・・さすがはボンゴレ、ってか?』
最上階の部屋についたときその人はどこか諦めた笑みを浮かべて窓辺に寄りかかっていた。
その笑みにこの状況が全て現実なのだと突きつけられた。
『次期にボンゴレだけじゃなくキャッバローネも来るだろうな』
そんなことを呟きながら空を見上げる彼。
『もうちょっと上手くやれると思ったんだがなぁ』
ガチャリと重々しい音と共に俺の足元に放られたのは黒く光る拳銃。
『殺せ』
言われた言葉の意味が分からない。頭が熱くなりだして彼の言葉を受け入れることを拒否している。
『言ったろ?調和を乱す者には制裁を、裏切り者には報復を・・』
どっちみち俺は殺される、だったらお前に殺されてやるよ
そう笑う彼に俺は何度も言った。
何とかするから、生きてくれ、
叫ぶように言っても彼は相変わらず困ったような笑みを崩さず真っ直ぐと俺を見ていた。
『けじめはつけたいんだ』
そう言って笑った彼にもう何を言ってもダメだと分かった。足元に転がっていた拳銃を拾い彼へと向ける。
熱いものが頬を伝う。
殺したくないと自分がどれだけ願っても、そんな願いは聞き入れられないのが俺が踏み込んだ世界なんだ。
『それでいい、』
引き金を引く瞬間、彼は諦めたような笑顔ではなく、いつも俺やボンゴレの仲間に見せていた笑みを浮かべていた。
飛び散った血が僅かに顔にかかる。目の前で崩れ落ちていくのは俺が尊敬していた人の身体。
殺したのは俺。
彼がどうしてボンゴレを裏切ったのかとか、そんなことはどうでもいい。
殺したくなかった人を俺は殺した。そういう道を選んだのは俺なのに。後悔なのかなんなのか分からない。
ただ気持ち悪かった。
中学時代の俺だったらきっと殺さなかった。自分が殺されたとしても引き金を引くことをしなかっただろう。
なのに今の俺は自分が何を感じているかも分からない。後悔しているのかしていないのか、悲しいのかそうでないのか。それすらも分からない。
懐から携帯を取り出す。隼人に連絡する。
「隼人・・?あぁ、殺したよ」
そう言った瞬間、隼人が息を飲んだのが分かった。
「後のことは任せる・・一人になりたいんだ」
返答を聞く前に一方的に電話を切る。
もう二度と笑うことのないその人に背を向ける。
尊敬していたその人を殺したのは、俺。
強くなっていくことが嬉しかった、でもこんな強さが欲しかったわけじゃない。
大切な人を殺しても平然としていられるような、そんな強さならいらなかった。欲しくなかった。
空が見えない (外は雨だった) (空なんか見えなかった)
もう一生、俺はよどんだ世界でしか生きていけない気がした。
陽のあたる場所に出ることは許されず、空を見上げることも許せないまま、そうやって生きていく。
それぐらい気持ちが黒く染まっていた俺の前に
『あの、濡れてしまいますよ?』
彼女は青空を連れて現れたんだ
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