「ダンスパーティー、ですか?」



兵士達が食べ終えた朝食の食器が片付け終わる頃。今日も一番遅くやってきたハンジ。どうやら毎日夜遅くまで巨人の研究をしているらしく、ハンジが食堂にやってくるのはいつも日が昇りきった後のこと。

誰もいない一人きりの食堂で朝食を食べるハンジにデザートのゼリーを差し出したとき言われたダンスパーティーという単語。ナマエは首を傾げて見せた。

顔をキョトンとさせたナマエからゼリーを受け取るとハンジは笑みを濃くし「そう!」と大きく頷いて見せた。



「調査兵団の支持母体が開くパーティーなんだけどね、エルヴィンを筆頭に私も招待されてて、…んっ、このゼリー美味しい!」

「あ、そのゼリーこの前ハンジさんにいただいたリンゴで作ってみたんです」

「ナマエの料理の腕はどんどん上がっていくね」

「ありがとうございます」

「あっ、それでね!さっき話したダンスパーティーなんだけどね」

「楽しみですね、是非楽しんできてくださいな」

「良かったらナマエも参加しない?」

「えっ」



突然の誘いにナマエは僅かに瞬きを繰り返しハンジを見た。



「でも、私は」

「今でこそ食堂の天使だけど、あなただって元は調査兵団の一人なんだから」

「しょ、食堂の天使…?」

「知らないの?白いエプロンと笑顔でご飯を用意してくれる姿がそう見えるらしいよ」

「あら、なんというか恥ずかしいですね…」

「で、ダンスパーティーなんだけど!」



ハンジさんとの会話はいつも脱線してしまうなあ、と少しだけ苦笑いしながらも「はいはい」とハンジに耳を傾けるナマエ。

ナマエがこの食堂を受け持つ前。兵士として調査兵団に配属していた時から、ハンジとの会話はいつもこんな感じだった。



「どうも男性のエスコートで参加して欲しいらしいんだよね」

「えっ」

「私はモブリット辺りに頼もうと思ってるんだけど」



「ナマエはさあ、やっぱりさあ、」と意味ありげにつぶやきながらニヤニヤと口角を上げるハンジに、ナマエは意味が分からずまたキョトンとしてしまう。



「なんですか?」

「何ですか、ってリヴァイがいるじゃん」

「え、……、ええっ」

「立場上、彼も参加だろうし、そしたら誘われるんじゃない?」



リヴァイ、と名を出された瞬間、まるでリンゴのようにほんのりと頬を染めたナマエにハンジの笑みは更に濃いものになる。

二人の関係は同僚というには距離が近く、恋人というには遠い。ナマエはもちろん、あのリヴァイもナマエには表情を和らげ声もどこか優しいものになる。

そんな二人の少しもどかしい関係に気付いているのはハンジだけではない。リヴァイと親しい者や、最近ではハンジの直属の部下であるモブリットですら気付き始めているというのに。



「ナマエはちょっと鈍いよね」

「あら、リヴァイさんにトロいと言われたことはありますが鈍いは初めてですね」



うふふ、と穏やかに笑うナマエ。そんな彼女だからリヴァイとの距離も曖昧なものなんだろう。リヴァイの苦労を察しハンジは小さく溜息をついた。



「誘ってもらえるといいね、リヴァイに」



そう言うとナマエは少し瞬きを繰り返したあと、少し照れ臭そうにはにかんで見せる。

そんな表情を見ると、ああやっぱり彼女にとってもリヴァイは特別なんだなと納得してしまうのだ。