「え、届かない…?」

「どうやら担当者が発注の確認ミスをしたらしい、悪いが聖夜までに届けるのは無理だ」

「そんなっ…こ、困ります…」

「そう言われてもなぁ」

「……っ」



眉を寄せ、項垂れてしまったナマエに食材を届けにきた業者の男は困ったように頭をかいた。

先日ナマエが発注した調査兵団の食材は全て届いた。全て届いたのだが、ナマエが個人的に注文していた食材が何一つ届いていなかったのだ。

特別に注文した食材は、他でもないリヴァイの為のもの。誕生日に振る舞えたらと思っていた物だ。



「悪いなぁ、お嬢ちゃん」

「いえ、大丈夫です…お忙しいのに引き止めてしまってごめんなさい…」



そう言って頭を下げると、業者の男はナマエの事をチラチラと気にしつつ調査兵団の食料庫を出て行く。

ナマエは男が出て行ったのを見送ると、届いたばかりの食材の箱に手をついて、ペタンとその場に座り込んだ。



「…」



どんな形でもいいからお祝いをしたかった。誰だって自分の産まれた日をお祝いしてもらえるのは嬉しいはず。産まれてきてくれてありがとう、なんて事は言えないが。自分の得意な料理を振舞って、おめでとうなら言えると思っていた。


言えるのだろうか…?


漠然とした疑問がナマエの胸を覆う。材料が届いていない今、豪華な料理と共に祝う事は難しい。ならばせめてお祝いの言葉を、と考えたが。

肝心の聖夜は、エルヴィンの同行をする事が決まっている。それなのに、どのタイミングで言えばいいのか、リヴァイと会えるのか、会ったとして誰か別の女性をエスコートするリヴァイをみて自分はちゃんと笑う事が出来るのだろうか。

次から次へと浮かぶ疑問に俯いた顔が上げられない。



俺じゃ駄目か



思い出すだけで胸が高鳴る。頬が熱くなってしまう。

あの言葉に、本当なら応えたかった。私も、と言いたかった。



「…っ」



ぎゅっと握り合わせた両手は痛くない。

以前ならピリピリとした痛みや、悪い時は皮膚が裂けてしまっていたというのに。

もらったハンドクリームは街で評判というだけあって、塗ってみたその日から手の調子が良くなっていくのを実感していた。ほのかに林檎の香りがし、小瓶に貼られたラベルにはカモミールと書かれていた。

いつだったか、リヴァイが似合うと言ってくれたハーブもカモミールだった事を思い出す。

髪飾りに向いてると言って髪に挿してくれた。たったそれだけの出来事でも、掛け替えのない大切な思い出だと感じてしまうのは、それがリヴァイとの思い出だからだ。



少なくとも俺には、この手は他よりも女らしく見えている



優しい人。

出会った時から、今まで、ずっとずっと、優しく接してくれる。一緒にいると胸の内が暖かくなって、たまらない幸福感につつまれる。



「私は、」



材料は届かない、ハンドクリームのお返しを準備する事が出来ない。エルヴィンの同行が決まってしまっている今、リヴァイの言葉に気持ちを返すことも出来ない。

それでも。

それでも、この胸の内は。この想いは。