『今夜のお天気ですが、曇る時間もありますが月や星が垣間見える時間もあります。傘の心配はありませんので、家族や友人とお出掛けの予定がある人、デートの予定がある人は思う存分楽しんでくださいね!、さあそれでは続いてのコーナーです』



いつも聞いているラジオのお姉さんの言葉に私はにやにやと口角を上げた。デートの予定がある人、まさに私のことだからだ。

新入社員として入社した会社で出会った先輩に一目惚れをして早半年!連絡先を聞いて徐々に距離を詰めていき、ただの後輩から格上げされる日を虎視眈々と狙ってきた!

そして今日!その努力が実を結ぼうとしている!



「髪留めどうしよっかなあ…」



ジュエリーボックスをあけ、うーんと悩む。

女性らしくリボン系?それとも大人っぽくビジュー系?当たり障りのないお花系もありだなぁ、なんて考えながらも上がる口角は隠せない。

今日の為に準備しておいたワンピースに腕を通し、普段会社には決してしていなかない女の子っぽい色合いのメイクをして。今日のデートに想いを馳せる。

誘ってくれたのは先輩から。一体どんな所に連れて行ってくれるんだろう、ああでも先輩と一緒なら私はどこでも…



「随分と化粧が濃いな」

「クラウドの言う通りだ、アンタに似合ってない」



聞こえた二つの声に、ピキと苛立つ。

ジロリと視線を送れば、そこには二人の妖精。私が契約したクラウドとスコールだ。

願いを叶える妖精と契約出来るなんて!それが二人もいるなんて!と喜んでいたのは昔のこと。願いを叶える、なんて名ばかりだ。他の妖精は知らないが私に声をかけてきたこの二人は間違いなく私の願いを叶える気はない。



「ちょっと!私いますごく忙しいの!邪魔しないで!」

「邪魔はしてないだろ」

「嫌味を言っただけだ」

「それを邪魔してるっていうの!」

「クラウド、これ持っていけ」

「ああ、分かった」

「ああ!私の髪留め!」



悩んでいた髪留めを全て持ってパタパタと飛んでいく妖精を慌てて追いかける。

こんな事している場合じゃないのに。せっかくおしゃれしたのにぐちゃぐちゃになってしまう。



「もう!どうしていつもいつも邪魔するの!」



ある時は先輩に誤爆メールを。
またある時は先輩からのせっかくの着信を拒否。

この二人は可愛い見た目に反してやる事がえげつないと心から思う。

小さい羽根、しかも髪留めを持ったままの飛行ではスピードに限界があるらしく、ようやく追い詰めた二人を順番に捕まえる。

まずはクラウドを右手で捕まえ、次に左手でスコールを捕まえる。



「今日だけは邪魔しないで!」

「「嫌だ」」

「あんた達ね…っ!」



言っても無駄だ。相手にしていたら時間を取られるばかり。髪留めを没取するとペッペッと二人を離した。

いつもなら掴んだまましばらく怒るのに簡単に離した私を不思議に思ったのか、二人の妖精は私の後ろをついて回る。



「名前、どうしても行くのか」

「当たり前でしょ、クラウドだって好きな子に誘われたら嬉しいでしょ」

「名前は男と話すより壁と話していた方がいい」

「スコールは私をなんだと思ってるの?」



二人からの言葉には反応しつつ準備の手を休めない。

髪留めにはお花がモチーフのものをチョイスするとカバンを持ち玄関へと向かう。



「いい?私今日は雨が降ろうが、槍が降ろうが、先輩とのデートに行くからね!」

「スコール仕方がない」

「…そうだな」



やっと分かってくれた。

ほっと安心するとヒールが高めなパンプスを履く。少しでも綺麗に見えたいから普段よ物よりもヒールは少し高めだ。

「じゃあ行ってくるね」と二人に振り返ったら、何やらお互いの手のひらを片方ずつ合わせるクラウドとスコールの姿。

変なポーズでお見送りだな、これが妖精流なのかしら?

と考え扉を開いた瞬間。


ドシャアアアアアア!!



「え、えっ、えええええ!」



先程までの天気はどこへやら。ラジオのお姉さんも今日は晴れると言っていたのに。

慌てて携帯を取り出すとラジオをつける。



『あ、あれ?なんだか外が土砂降りみたい、ごめんなさい皆さん、今夜のお出かけはちょっと難しいかもしれませんね…っ』


困惑したお姉さんの声に紛れて。


『な、なな、な、何でッスかぁぁぁあ!』


聞き慣れない声が響いた。

あまりの急展開に頭がついていかず、目を白黒させていたら。



「成功だな」

「ティーダ一人の力なんて、俺たち二人のお天気妖精には通じないな」



まさか。

ばっと振り返る。まるで魔法でも使ったかのように現れた厚い雨雲に、土砂降りの雨。お天気妖精のスコールとクラウド。



「まさかあんた達…!!」

「さあどうする、名前」

「雨が降ろうが槍が降ろうが行くんだろ」



このとんでもない土砂降りを降らせておきながら。今になって「「行ってらっしゃい」」と声を揃える二人に私は履いていたパンプスを脱ぐ。

それと同時に逃げ出す二人。



「待ちなさいッッ!!」



妖精二人との鬼ごっこに夢中になっていた私が先輩からの『すごい土砂降りだからまた今度にしよう』というメッセージに気付き凹むまで、そう時間はかからなかった。






(私の恋がうまくいきますように!)


願うんじゃなかった!全然うまくいかない!

名前自信を持て

そうだ、素材は悪くない

誰のせいよ!!

2016.09.13