「そうですか、分かりました」 「全てお前に押し付けてしまってすまないな」 「いえ、これぐらい問題ありません」 ナマエはツォンから手渡された書類をパラパラとめくり一通り目を通し終わるとファイルへとしまった。 ツォンは彼女のことをタークスと言うエリート部隊の中で自分の次に仕事の出来る人間だと思っている。いや実際そうだ。言われたことは一つのミスなくこなし、完璧に仕上げるその様は他の者達にも見習ってもらいたいと思うほど。 無表情のまま書類を整える彼女の顔を見つめすぎてしまったからだろうか、ナマエがふと顔を上げた。 「‥何か?」 「いや、」 「そうですか」 頭もよければ腕も立つナマエの欠点と言ったら、口数が少ないところだろうか。必要以上のことは口にしないナマエはツォンでさえも何を考えているのか分からないところがある。 ルードもどちらかといえば無口な方だが、ナマエほどではない。感情で表情を動かすルードに対してナマエは何があっても表情を変えることは無い。 ただ一つ、ある対象に対して以外。 ―――プシュウ‥ 「レノ!あなたねえ、あれだけ私とルードがそこから動くなと言ったのにどうして勝手な行動したの!?」 「はいはい、悪かったな、と」 「ちょっと、ルードも何か言いなさいよ!」 「‥む‥そんなカリカリするな、シスネ」 「私にじゃなくてレノによ!!」 「まあ任務自体は成功したんだから問題ないだろ、と」 「‥‥」 「ナマエ?」 「‥‥」 音を立てて開いた扉から入ってきた三人の姿。何やら口喧嘩をしている彼らを無表情のまま、ぼんやりとある対象を見つめるナマエにツォンの声は届いていないのか、彼女の視線がブレることはない。 ある対象、それはレノのこと。気付いてるものは少ないかもしれないが、ツォンはそれに気付いた。どんな時でも、どんな任務でも、全てを完璧にこなす彼女が黙ってレノを見つめる。 ツォンは最初、彼女が彼に好意を寄せているのかと思ったが、時折こうやって見つめること以外特に行動を起こさない彼女。好意なのかそれとも嫌悪なのか、それすらも読み取ることが出来ない。 「ふむ‥」と小さく息を吐くとツォンは口を開いた。 「レノ、少しこっちに来い」 「ん?」 「‥、‥」 レノが振り返ると同時にナマエが彼から視線を逸らす。なんとも絶妙なタイミングだ。 「何すかー任務なら成功しましたよ、と」 「‥」 「おお、ナマエも一緒か。久しぶりだな、と」 「‥」 「はは」 レノがナマエの顔を覗き込もうとすると、無表情のままプイとそっぽを向くナマエ。彼女の反応が予想通りで面白いのかレノは「相変わらずだな、と」と言って笑った。 「最近一人で任務してんだって?大丈夫かよ、と」 「‥別に問題ない。一人のほうが楽だもの」 「‥!」 「そうかー?怪我とかしてねえか?」 「してない。一緒に、しないで」 「俺だって怪我してねえよ、と」 「そう」 必要ないことは一切口にしないはずの彼女がレノの言葉に淡々と言葉を返す。『はい』か『いいえ』ではなく、自分の感情を言葉にしてレノに伝えるナマエの姿に、ツォンは少し驚いた表情を見せたが、すぐに何か考えるように手を顎に添えた。 「レノ」 「はい?」 「お前、しばらくの間ナマエと組んでみないか?」 「‥!」 「俺が?ルードと一度手を切る、ってことですか、と?」 「ああ、次の任務ナマエ一人で行かせる予定だったんだがやはり心配でな」 「私は別に平気です」 「いいですよ、と」 「そうか、ならばその方向で話しを進める」 「‥平気、と言ってるんですが」 「遠慮すんなよ、と」 笑いながらレノがナマエの頭をぽんぽん、と軽く叩く。少しだけ表情を強張らせたナマエだが、再びぼんやりと無表情でレノを見つめる。少しだけ目を伏せた後、ゆっくりとした動作で頭の上に置かれたレノの手を掴んだ。 「やめて」 「ん?」 「縮む」 「縮むわけねえだろ、と」 わしわし、と乱暴に撫でられればナマエの頭がぐらぐらと僅かに揺れたが、ナマエが今度は両手でレノの手をしっかり掴むと自分の頭から離した。 「私、本当に一人で平気」 「おい、まだ言ってんのかよ‥別にお前の邪魔はしねえよ、と。俺は自分の身ぐらい自分で守る」 「‥そういうことじゃない」 「ん?」 意味が分からず首を傾げるレノ。ツォンもナマエの意図が読み取れず、少しだけ眉を寄せた。 「あなたが怪我したりしないか、私が心配になるの」 愛情見つけた (やはり嫌悪ではなくて) (好意の方だったか) 一緒だとあなたが心配で私きっと上手く動けない ‥‥‥ だから、一人のほうがいい ‥だそうだが、レノ? ‥いや‥お、俺‥え、いや‥はあ!?お前っ、はあ!? ?‥私、何か変なこと言った? 20100606 |