切っ先が巨人の顎を捉える。

切るというより叩き壊すように剣を振るうと、ガゴンと嫌な音を立て、血を吹き出しながら巨人の顎は外れた。

捕食されかけていたナマエの身体が落下する。他の巨人達が捕食しようと手を伸ばすが、それよりも疾く、閃光のように動いた影が彼女の身体を抱きとめ急上昇した。



「…くっ」



巨人の腕を間一髪の所ですり抜けると、アンカーを繰り返し飛ばし奥へ逃れる。辺りを見渡し、ここ一帯で一番高い木を見つけるとすぐに枝に登りナマエをおろした。



「ナマエ…っ」



名前を呼ぶ。けれど、彼女の返答はない。穏やかな笑みも、よく通る声も、何もない。彼女の瞳に自分は映らない。

ぐったりと動かないナマエの身体。表情は歪む事なく、うめき声すら上げない。ただただ静かに目を閉じるその姿に、一気に血の気が引いていく感覚がした。

リヴァイはすぐさまナマエの口元へと顔を寄せると、呼吸音に耳を澄ました。



「…、…」

「っ!」



僅か。

聞き取れるか聞き取れないか、それぐらい小さなもの。けれど確かに、ナマエは呼吸をしている。

生きている。彼女は、まだ。

けれどこのままでは。



「…」



血の気の引いた白い頬をなぞり、口元へと指先を這わせた。

たった一人、誰もいない中で戦うのは怖かっただろう、誰にも助けを求められないのは辛かっただろう。泣きもせず、諦めずに戦ったのか。

ナマエ、とまた小さな声で名前を紡ぐ。その声は酷く掠れていた。眉間にシワを寄せ彼女を見つめる。彼女の頬はただ白く、涙が流れた痕がない。めげなかった証だ。

リヴァイはナマエの口の端から垂れた血を己の指でそっと拭ってやると、身体を寄せ、優しく、まるで壊れものを扱うように、両腕で彼女を包み込んだ。


「よく頑張った……後は俺がやる」


その瞬間コツンと当たる頭。

まるで はい と返事をするかのように、ナマエの頭がリヴァイへともたれ掛かった。

意識のない彼女。今のは偶然だと分かっている。けれどリヴァイは、その偶然の触れ合いに最大限の力を見出した。何としてでも守りたいものが今、腕の中に在る。決して失くしたくはない、存在が。

ナマエの身体を離すと、スッと立ち上がり見下ろす。

木のすぐ下には巨人達がもう詰め寄ってきている。その中には、先ほど切りつけた巨人が見えた。回復中なのか顎から煙が出ている。ナマエをここまで痛め付けた巨人。無意識に、剣を握りしめる力が強くなった。

一番高い木に登ったと言っても、15m程の巨人が手を伸ばせば簡単に手の届く距離。リヴァイが少しでも気を抜いたら、意識の無いナマエは捕まり捕食されるだろう。彼女を守りながらの戦いになる。だが。

もう触れさせはしない。



「……」



リヴァイの鋭い瞳が更に細められる。睨み付けるように見据えるのは、あの巨人。

まずは、お前だ。


誰にも聞こえないほど小さな声。次の瞬間、リヴァイは静かに枝を蹴った。