「リヴァイ力を貸してくれ!」
たくさんの声が、前を向いて走り続けるリヴァイの耳に響いた。切羽詰まったネスの声。動揺したリヴァイの班員達の声。新兵の悲鳴や動揺、全ての声が響いた。
ネスの班員に抱えられた血だらけの兵には見覚えがあった。けれど自分が踏み込むべき対象では無いので、触れることはしなかった。
「雑木林を過ぎたところで、巨人に襲われた!」
「そんな!だって、大航路に巨人は…っ」
「リヴァイ兵長!もしも巨人が俺たちの所まで来たら…っ」
「落ち着くんだ!ネス班長の話しを最後まで聞け!」
たくさんの声が響く。
けれどその中で、物言わぬリヴァイが思うことは一つだった。振り返りたくない、確認などしたくない。けれど、自分の見間違えでなければ、ナマエは。
「…ナマエはどこにいる」
リヴァイの質問に、周りの声が止んだ。
彼女がいないことに、一目で気付いた。だが、そんなことを認めたくない自分が、予想してしまう最悪の結末が頭を過ぎり、その事実を否定し続けた。
「っナマエは…アイツは、俺達を逃がす為に…っ!」
「置いてきたのか?」
「違う!!これしか方法が無かったんだ!班の被害を最小限にするには、これしかっ」
ナマエは、どこにいる。穏やかに笑う彼女は。泣き虫な彼女は。大切に想いながら、自分の行動で傷付けてしまった彼女は。
今。たった一人で、戦っているのだろうか。
「今ならまだ間に合うんだ!ナマエの所に戻ってやりたい…!!」
「リヴァイ兵長!私はネス班長と共にナマエの所にっ」
まだ、伝えていないことが山ほどある。言わなければいけない事、謝らなければいけない事、聞いて欲しい事。
それなのに、何も伝えていないうちに、彼女は他の誰かの為に自分を犠牲にして、いなくなろうとしているのか。
未だ、たくさんの声がリヴァイの耳に響く。けれど、その声が頭には入っても、心に響くことはなく。リヴァイが弾き出した答えは、一つだった。
「ナナバ、お前にこの班を任せる」
一言告げると、次の瞬間リヴァイは手綱を強く引き、方向を転換した。
向かう先は、まだ僅かに空に残る、赤い煙。
ナマエが、一人残った場所。
「!リヴァイ兵長お待ちください…!」
「待てリヴァイ!俺も、」
誰かが引き止める間も無く。誰かが口を挟む間も無く。愛馬のスピードを最高速にしたリヴァイには誰も追いつくことが出来ない。
小さくなっていくその背中を、ただ呆然と。見送ることしか出来なかった。
・・・
ただひたすら、彼女の事を想った。
最悪の結末など、想像したくもない。このまま終わりを迎えるなど、認めたくない。
ナマエは自分が思うよりも賢いはずだ。間違いなく平地から雑木林へと移動しているはず。そうして今も巨人と交戦しているはず。今も、必ず生きている。
そうであってくれ、という願いに近い。
「お前はナマエの馬を探し、傍にいろ…近くにいるはずだ。俺が合図を出すまでナマエの馬を守れ…出来るな?」
語り掛けたのはリヴァイの愛馬。リヴァイの言葉を理解したのか、ブルルッと鼻を鳴らし返事をする。
「いい子だ…」
トン、と首を撫でるように叩くと、リヴァイの愛馬は更にスピードを上げた。
「ナマエ…」
すぐに行く。必ずこの手で助ける。必ず。だから。諦めないでくれ。生を手放さないでくれ。
待ってろ、
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