あの時は確かに見えていたんだ。想いが重なるその瞬間、初めて見るあの人の表情。初めて聞いた慈しみのある声音。告げられる想いは夢のようで、嬉しくて、泣きそうになって。そんな私を見て呆れたように鼻で笑って。

優しく、まるで壊れ物を扱うかのように抱きしめてくれた。

心地よい感触に満たされて、ああ私はとても幸せだ、と心底そう思えた。確かにそう思えていたのに。



「‥あ、ほらほら見て‥あの子って確か‥リヴァイ兵長の」

「恋人だっけ?でも大した実力は無いらしいよ‥」

「えー、兵長の相手なんですからそれなりの実力者じゃないんですか?」

「違う違う、ただ兵長に守られてるだけで戦績も全然‥」



注目されるのはもう慣れたことだった。彼との関係がスタートしたその日から、周りの私に対する目は異様なほど厳しいものになった。それまでは一介の兵と変わらない扱いを受けていたというのに。

実力、態度、容姿。あらゆるものを影で評価され、それはやがて陰口同然のものとなった。

何か一つ戦術を覚えたとしても、兵長の相手ならもっと出来るはず、と評価してもらえない。態度や挨拶、身だしなみ、それら全てに力を入れていたとしても、まるで粗探しのような小さな部分で指摘される。容姿は‥持って生まれたものだもの。文句を言われてもどうしようもない。

あの人と一緒にいる為ならば多少の陰口は耐えられた。足りないのなら足していけばいい、と前向きになることが出来た。


だけど、



「でも‥よく堂々としてられるよね‥」

「本当、あんなことされてるのに惨めとかそういう気持ち無いのかしら?」

「まぁ、兵長の傍に居ればとりあえずは安全ですもんね‥私だったら耐えられませんけど」




やめて、やめて。言わないで、触れないで。他のことなら何を言っても良いから。耐えるから、構わないから。だから、お願いだから‥



「兵長に飽きられてることにも気付かないで、本当に惨めな子。昨晩兵長が誰と一緒にいたのか分かってるのかしら」



クスクスと響く笑い声。わざとらしく、私に聞こえるほどの声で紡がれたそれは、私が必死に見ないようにしてるもの。

私は知らないものそんなこと。見てないもの。だから、大丈夫、大丈夫。




「今夜は誰と過ごすのかしらね?あなたを一人にして」




見えないの、見えないの。だから私の心が潰れてしまいそうになるの。あの時、あの瞬間、思いを告げられたときそれは確かに見えていたのに。




あなたの心が、見えないの。