コラボ | ナノ
「ミッション開始時刻一時間前。
 集合は完了している、と。」
銀色の懐中時計を一瞥し、こぼれた夢乙女の言葉に、歌仙は皮肉げに口の端を吊り上げて嗤う。
「さすがは政府が招集した審神者だね。
 誰一人時間に遅れたものはいない。
 ・・・最も、これから烏合の衆と成り果てる者がいったいどれだけいるんだか。」
「なんなら報告書で詳細に書いてやれ。
 そうすれば政府の頭でっかちどもにちくりとやってやれる。」
さて、と夢乙女は眼前の審神者たちをちらりと見遣る。
ごく一部(無論、市と士乃のグループのことである)を除いた大多数の審神者とその供の刀剣男士たちはどこか不安そうにざわざわとざわめきあっている。
「乱。」
「はーい。
 はいはーい、皆注目ー!
 今回の任務のお話が始まるよー!」
だだっ広い空間に、乱の高い声はよく響いた。
ざわめきは嘘のようにぴたりとやみ、視線はぴょんぴょんと飛び跳ねて皆の視線を集める乱、ひいてはその後ろに立つ夢乙女へと集まる。
「ご苦労、乱。
 諸君、私が此度のブラック本丸摘発任務の統率を務める夢乙女だ。
 審神者の諸兄らは任務中は私の命令に従って行動してもらう。
 独りよがりの勝手な行動、単独行動は諸兄らの死に直結するものと考えてくれたまえ。
 次に、刀剣男士の諸君。
 今回の任務中は私か、あるいは私の刀剣男士である歌仙、同田貫、乱の指示に従ってもらう。
 主人を守りたくば従うことを推奨する。
 なお、他の本丸の同一個体と重複せぬよう、我が部隊の三名は左腕にこのように白の腕章をつけている。
 何か質問は?」
場は静まり返っており、声をあげるものは誰一人いない。
「では次に進む。
 此度の摘発対象はいわゆる夜伽系本丸。
 しかも腹ただしいことに己の刀剣を用いた売春宿のようなものを経営しているそうだ。
 これが、」
パチン、と夢乙女が指を弾く。
すると、審神者たち各自の手元にでっぷりと太った中年の男の写真が立体映像として映し出される。
「件の本丸の審神者だ。
 しかし手元のデータが示すように術者としても優秀な部類に入る。
 仮に本丸内にて見かけた場合でも無理に相手をしようとするな。
 この男と出会った場合、刀剣男士は闘わずに逃げよ。
 そしてここからが重要な話だが、今回の任務で要求されるのはこの審神者と、売春宿と化した本丸を利用する者たちの捕縛だ。
 だがまあ、生きたままで捕縛しろとは言われたが、足の一本や二本や三本がなくなっていてはいかんとは言われていないからな、
 多少の怪我は目を瞑ろう。
 ここまでで何か質問は?」
遠慮がちに、手が上がる。
上げたのは、どこか幼さの見える女の審神者だ。
「あ、あの、その本丸の刀剣男士は、どうなるんでしょうか・・・。」
「捕縛が完了次第治療にあたってもらう。
 他に質問は?」
手は上がらない。
「では続いて部隊を三つに分ける。
 お市、士乃、こちらへ。」
呼ばれ、市と士乃、そしてその供である刀剣男士や漂流者がぞろぞろと移動する。
「我ら三人とその刀剣男士、協力者が先行して件の本丸に侵入する。
 ついで、私が合図を送ったのちに諸兄らの刀剣男士を侵入させよ。
 諸兄らはこの仮想空間にてそれぞれの刀剣男士に指示を。
 浄化作業は捕縛任務完了後に追って指示を出す。
 質問は?
 ないな。
 では、現時刻よりブラック本丸摘発任務を開始する!」
夢乙女のその宣言とともに、じわりと仮想空間の壁面の一部が歪み、新たなゲートが出現する。
同時に、頭上に大画面が現れ、周囲に小型のモニターが浮かび上がる。
「ああ、最後に一つ。
 どうしても緊急脱出する場合はそれぞれのモニター脇の赤のボタンを押し込むといい。」
では、行くぞ。
まず、夢乙女とその配下の三人がゲートの向こうへと消えた。




「ふむ、やはり座標が撹乱されているな。」
ゲートの向こう。
予定していた無人の座敷ではなく廊下へと出た夢乙女はそうひとりごちた。
といってもこれも想定のうち。
慌てるような事態ではない。
「こりゃ、他の連中とも分断されちまってんな。」
市、士乃の反応をマップで確認した同田貫も呟く。
「まあいい。
 獲物が少なくなる心配はまずなくなったのだからな。
 さあてと。」
夢乙女の唇が、ゆるゆると吊り上がる。
「片っ端から戸を開けて、愚か者どもを捕縛する。
 なあに、『生きたままで』といわれただけだ。
 足だろうが手だろうがその汚らしいブツだろうが、一本二本足りなかろうが問題はないだろう。」
その手には、いつのまにか鞭が握られている。
「それでは、『掃除』を始めるとしよう。」
答える三人の唇も、吊り上がる。
「「「Sir, Yes sir!!」」」
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