コラボ | ナノ
「仲間割れを始めるのは大変結構だが、随分と余裕があるようだ。」
審神者の男はどこか嘲りの色を込めた目で彼の元へとたどりついた面々を見た。
「余裕?
 ああ、まあ、余裕だな。」
思う存分豊久をボコボコにし、手についた埃をぱんぱんと払いながら夢乙女は男を見る。
「正直なところ、なぜお前のような二流、三流もいいところである男の元に私をはじめとした審神者たちが突撃させられねばならなかったのか、今でも理解に苦しんでいる。」
ぴく、と男の目元が一瞬ひきつる。
しかしそれを押し殺して、男は薄い笑みを口元に浮かべた。
「なるほど。
 こちらが思っていた以上に君たちは賢しかったらしい。
 しかし、その余裕はいつまで続くかな?」
「裏切り者たちのことを言っているのなら申し訳ないが助けになんぞ来ないぞ。」
こちらも男同様に、薄い笑みを口元に浮かべた夢乙女が指を鳴らせば、ぽふんという音とともにこんのすけが姿を現す。
「討伐隊メンバーとして無作為に選ばれた審神者たち全員のデータを洗いざらい漁りました!
 全員が全員、この売春宿の利用者でしたぞ!
 審神者様のご采配通り、全て待機していた第二部隊により拘束が完了しております!」
ひくん。
また、男の目元がひきつる。
「私は自分がいわゆる脳筋だと理解している口でな、突撃するにしろ、特攻するにしろ、裏の裏、重箱の隅まで掘り下げられるところまで情報を漁るタチだ。
 頭の悪い政府高官連中にとって目の上のたんこぶである我々三人の審神者をまとめて片付けたかったのかもしれんが、
 これでご破算。
 さあて、願いましては。」
鋭く尖った犬歯をむき出しにして、夢乙女は嗤う。
「戦争をしようか、歴史修正主義者。」
「んあ?!」
「なんじゃと?!」
「なんだ、気づいていなかったのか、のぶのぶ達は。
 こんな妙な迷路みたいなだだっ広い空間を作れるのなんざ、歴史修正主義者でなけりゃ神仏の類だけ。
 となれば消去法でここは歴史修正主義者による審神者を歴史修正主義者側に引っ張り込む施設ってことだ。」
夢乙女がそう言い終わらぬうちに襖が斜めに切り倒され、ぞるぞると歴史修正主義者達が室内に入り込んでくる。
「士乃、左の連中は任せる。
 お市、お前は右を。
 私はあいつと正面を、」
殺る。
深淵の闇よりもなお深い黒の瞳が、猫のようにきゅううっと細められ、唇が釣り上がる。
どうしようもなく楽しそうな、笑みを浮かべた夢乙女が、足を一歩踏み出す。
彼女へと、前方から槍が突き出される。
しかし、夢乙女へと至る前に槍は柄ごと切り落とされ、ぼとりと地に落ちた。
「すまないが、好き勝手やらせるわけにはいかないんだ。
 僕たちもさっさと帰ってやることがあるしね。」
「そうそう。
 今日は大阪城に潜ってたみんなが帰ってくる日だから、おかえりパーティーをするんだよ!」
「せっかくの宴会なんだ、遅れるなんていう野暮はしたくねえな。」
銀(しろがね)色のきらめきが三つ。
あっというまに向かってくる遡行軍を斬りふせる。
「そう。
 というわけで私の目の前に残るのは貴様だけとなったわけだが、どうする?
 命乞いでもして見るか?
 ああでも貴様の脳みそさえ無事だったならうちのこんのすけに記憶だの何だの全て吸い出させることになるだろうから、」
生きてようが死んでようがあまり関係はなかったな。
ニタリと嗤うそれは、まさしく悪魔。
余裕ぶった男も、その笑みとは裏腹に放たれる殺気にあてられ、へたへたと崩折れた。
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