コラボ | ナノ
「しかし、こうも広いと埒があかないな。」
迷路のように入り組んだこの本丸では、人探しをするのもやっとだ。
「手分けして探すか?」
「いや、それは危険だ信長公。
 粗方捕縛は済んだと思うが、分散すれば向こうの思うつぼだ。
 何と言ってもここは奴の支配域なのだから。
 ・・・いや、そうか、その手があったな。」
「うん?」
信長との会話の中でなにやら糸口をつかんだらしい夢乙女の言葉に、士乃は首をかしげる。
「こんのすけ!」
「はい!こちらに!!」
ぽふん、としばらく前に別れたばかりのこんのすけが一行の前に姿を現す。
「この本丸の登録IDを強制的に書きかえて私の支配下におけ。
 できるな?」
「30秒もあれば十分にございます!
 少々お待ちを!!」
再びこんのすけは姿を消す。
「IDの書き換えなんてできるんですか?」
「うちの主にはできるんだよ、那須殿。
 なんといっても政府に認められたブラック本丸摘発機関を率いているんだからね。
 その本丸の支配権を一時的に掌握することも認められている。」
「へえ、おっかない。」
「完了いたしました!
 本丸構築システムに夢乙女様のIDを上位IDとして認識させました!」
「ご苦労。
 ならばあとは簡単だ。」
夢乙女は左手の手袋を口にくわえて外すと、その手を冷たい廊下へと叩きつける。
「本丸を迷宮化させることができるのならばその逆も然り。」
夢乙女の叩きつけられた手から、薄青い光が四方へと伸びていくのを、士乃は見た。
バシュッと廊下を、壁を、天井を光が駆け抜けると。
「あ、ら?
 皆?」
「市姫!」
今まで誰も居なかった廊下の先に、市とその刀剣男士たちが姿を現したのだ。
「なんちゅうゴリ押しじゃい。」
「生憎と、私はこの手しか知らんのでな。
 どんなに強固な壁であろうと叩いておればいつかは崩れる。
 お師匠様の教えだ。」
「とんだ脳筋じゃ。
 お豊の実家並みに頭おかしいわい。」
「言ってろ。
 お市、全員無事か?」
こくりと市は頷く。
「主が壁に穴を開けまくる前でよかった・・・。」
「穴?」
「ああ、実はかくかくしかじかで。」
光世の説明に、夢乙女の片眉が軽く跳ねあがる。
「お市、」
「なあに、夢ちゃん。」
「阿呆か己は。」
バヂッと音がしたかと思うと、市はふぉぉぉぉと額を押さえてその場に踞る。
「主?!」
「デコピンしただけだ、傷は浅い。
 お前、マップはマップでも立体データの方は見ておらんだろう。」
「見てない、けどそれが?」
市がそういえば、夢乙女はあからさまにため息をつき、歌仙、と己の近侍を呼ぶ。
「はいはい、これでいいかな。」
端末を起動させ、この本丸の立体地図が立ち上がり、そこに移された映像に市をはじめ、士乃や信長も息を飲んだ。
「どうなっとる、こりゃあ。」
お豊が呟く。
「見ての通り、『めちゃくちゃ』なんだ、この本丸は。」
映し出されたのは、一階の廊下の一部と三階の廊下とがねじりあいながら繋がった廊下。
二階であるのに、部屋の部分は半ば土に埋もれつつある部屋。
歪なねじれた本丸の外観であった。
「霊力辿って探そうとしたらこのめちゃくちゃでありながら絶妙なバランスで成り立ってる本丸を損なうことになる。
 下手にやっていたらぶっ壊れたデータもろとも吸い出されて居たかもしれんのだぞ。
 もう少し考えるか通信を試みようとしろ、お前は。」
「・・・はぁい。」
「ということは、さっきの床ドンは、このねじれまくったどっかを市姫のとこと繋げたってこと?」
「ああ。
 今この本丸の支配権を持っているのは私だからな。
 この立体データによれば。」
ホログラムの映像を、夢乙女が示す。
「我々の目標は最上階の悪趣味極まりない天守閣に入るらしい。」
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