コラボ | ナノ
※注意!この作品には猟奇的表現等が含まれます。
ダメな方はブラウザバック推奨。

「審神者様!!
 夢乙女様!!」
さあ、次の部屋へ行こうと歩みを進めかけた夢乙女たちの足元に、ぽふんと音を立ててこんのすけが現れる。
「どうした、こんのすけ。」
「えっ、こんのすけってよその本丸に出てこれるの?」
首をかしげる士乃に、夢乙女のこんのすけはどこか誇らしげに答える。
「私はAIのレベルがハッキング方面でカンストしておりますゆえ、この程度のファイアーウォールも施していない本丸への侵入なぞちょちょいのちょいにございます!
 それよりも問題にございます。
 どうやら、政府が招集した審神者たちの中にも何名かこの売春宿の『利用者』がいた模様で。
 現在判明しているだけで5名。
 うち1名は数分前にお市様が捕縛なさいました。」
「なっ、」
「士乃よう、こりゃあ、俺たちが嵌められた口かもしれねえぞぅ。」
顎をさすりながら信長がそう呟くが、その顔はどこか楽しげだ。
「捕捉は?」
「すでに完了してございます!!
 歌仙殿、マップを。」
歌仙がマップを起動させると、『UPDATE』の文字とともにマップ上に表示されていた審神者を示すマーカーの半分が赤に変わる。
「全く、余計な手間を増やすから政府は嫌いなのだ。
 こんのすけ、待機させていた私の第二部隊を使って仮想空間内の全審神者の捕縛及び刀剣男士の保護を。
 強制脱出させてもログインしたまま戻ってこない連中がダウトだ。」
「かしこまりまして!」
ぽふん、と再びこんのすけは音を立てて消える。
「主、マーカーがこちらに移動している。
 80m先だ。
 ああ、面倒だね、彼ら、銃を持っているよ。」
「銃?
 火縄ですか?」
「いいや、那須殿。
 もっと面倒な現代兵器だね。
 火縄と違って連射もできる、命中精度も殺傷能力も上の面倒なものだ。
 S&WのM39あたりかな?
 どうする、主。」
「さすがに現代兵器じゃ豊久殿でも敵わなかろう。
 それに連中は審神者を狙ってくる。
 感覚共有していると言うのなら士乃が一番危ない。
 80m先だと言ったな?」
「うん。」
ほんの少し考え込むそぶりをした夢乙女は、与一殿、と与一を見遣る。
「うん?
 なんでしょうか?」
「弓を暫しお貸しいただけるだろうか。」
「弓を?」
「弓射はさほど得意な方ではないが、今はそうも言っていられまいて。」
「士乃、いいの?」
「私はいいけど。
 ってか、80mってさすがに難しいよ。
 三十三間堂だって60mちょっと、でしょ?
 スナイパーライフルじゃないんだから。」
「やってみないことにはわからんぞ、士乃。
 では与一殿、お借りする。」
借り受けた弓を、夢乙女は矢をつがえることなく引きしぼる。
「え、矢は?」
「必要ない。」
矢を差し出す与一にそう断った夢乙女の手元、弓の弦を引く手の内に、ぼぉっと青白く光る細長い針のような、矢のようなものが現れる。
「ほほう。
 結界でこしらえた針を矢にしよるか。」
「ぬう。
 珍妙な技じゃの。」
「私は、結界術も弓射も苦手でな。」
日がな一日どうしてやろうかと考えあぐねたものだ。
ぱっ、と矢が放たれる。
それはまっすぐまっすぐ廊下を突き進み、曲がり角をぐいっと曲がった。
「んな?!」
「ええええええ」
「なんじゃあありゃあ。
 物理法則を無視しよる。」
ぽん、と歌仙の手元でマップ上のマーカーが二つ、赤から灰色に変わる。
「目標沈黙。
 お見事。」
「というわけだ、隠れてないで出てこいよ。」
いつのまにか刀を抜き放っていた同田貫が、背後へと声をかける。
一同の視線がそちらへと動けば、曲がり角からそろそろと銃を手にした男二人が姿を現す。
「う、動くな!!」
「動くと撃つ!!」
「やれやれ。
 銃を構えるのは結構だが安全装置ぐらいは外したらどうだ?」
どこか呆れた風に夢乙女が呟けば、え、そんな、と男二人は同時に己の銃へと視線をやる。
「うっそー♪」
そのうちの一人を、飛び出した乱が襲う。
短刀の機動にただの人間が叶うわけなく、銃を蹴り飛ばされ、あっという間に地に倒れ臥す。
「ひ、ひいいい、ば、バケモノ!!」
残る一人が慌てて引き金を引こうとして。
「いいのかい?
 君が引き金を引くと彼、こうなっちゃうけど。」
目の前に、つい今弓射によって倒されたはずの仲間の映像が投写される。
その映像を投写している歌仙は嗤っている。
その背後の夢乙女も。
夢乙女の白手袋に包まれた手がゆっくりと上がり。
パチン、と指が弾かれる。
瞬間。
映像の中で、パァンと何かが弾ける音がした。
男二人がその音にあからさまに肩をびくつかせ、片方が何か言葉を発しようと口を開いて。
こぼれ落ちたのは、どす黒い、血。
『・・・え?』
男はきっと、何が起こったのかわからなかったのだろう。
ごぼごぼと血を吐き出したまま。
なぜ?どうして?そんな表情のまま、倒れ伏し、とうとう動かなかった。
「さっきの弓射は彼らの心臓に打ち込んだ。
 ずっと私たちを覗き見していたのだ。
 だから、わかるだろう?
 結界の矢は対象に命中すると同時に命中した箇所へ小規模な結界を展開する。
 この場合は心臓だな。
 さあて、生物の勉強です。」
楽しそうに夢乙女は嗤った。
「『人間は心臓そのものを破裂させられるとどれだけ生きていられますか。』
 こうなりたくなかったら大人しくするんだな。」


たらり、と信長の顔を汗が伝う。
「怖いのう、ありゃあ本物の化けもんじゃ。」
「お豊も大概だとは思っていましたけど、あれは、もっと怖い。」
「そうじゃな。
 お豊は馬鹿じゃ。
 どこまでも馬鹿正直で戦馬鹿じゃ。
 だがありゃあ、違う。
 『元から』の素養もあったろうが、ありゃあ『後から』植えつけられた狂気じゃ。」
「場所が場所なら、ここが私たちのいたあの世界なら彼女は間違いなく、」
「えんず、じゃな。
 しっかし、まあ、何をどうしたらひょろっちいこっちの世界の娘っこがああまで変貌するんだか。」
「そりゃあ、主の師匠のせいだろ。」
ひょい、と横から顔を出したのは同田貫。
「ほう。」
「500年生きた祟り神。
 人から化け物になった存在。
 俺も詳しくは知らねえが、応仁の乱の時に京都焼いちまったらしいぜ。」
「そいじゃ、お前らはさしずめ狂気を引き継いだ化けもんってところか。」
信長がぽつりとそう告げるのと同じくして。
腰を抜かして震える男から洗いざらいを聞き出した夢乙女が振り返る。
「士乃、どうやら私たちはやっぱり嵌められたらしい。
 お市と今すぐ合流するぞ。」
つい先刻の狂気なぞ全く見えぬ顔でそう告げながら。
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