「い"っ!?」
部屋を捜査中、急に後頭部を押さえて悶え始める士乃。
顔を上げたその目には涙が浮かんでいた。
「あ?どうしたおめー、そんな痛そうな顔して」
「…何かに後頭部殴られた。しかも結構強めに…なんでさ…」
「私も信もここに居るので…お豊か」
「あいつ何してんの」
「知らないやい…令呪以外で繋がってるとこういう所不便…不意打ち、駄目、絶対…」
そう話している間にも、ばっさばっさと切り捨てられる襖とターゲットの審神者達。
と、その時だった。
「そ、そこまでよ!!これ以上近付くとこの子がどうなったって知らないんだから!!」
そう叫ぶ女審神者の腕の中には刀を向けられた薬研藤四郎の姿が。
薬研の姿は殴られ蹴られ、顔や体に痣を沢山作った状態だった。
「あのアマ…!!」
「士乃、どうしま、す…愚問でしたね」
「おめーの今の顔すげぇおっかねぇ」
苦笑しながらすっと後ろに下がる信長と与一。
「お、おい?」
「どうしたブラウニー…?」
「ははは、主に近付かない方が賢明だよ君達」
と、肩を竦める髭切。
「は?」
「主、怒ってるからねぇ…」
「てめーは私を怒らせた…!!」
「ほらね」
「UBWる!?UBWるのか!?」
「おい誰かBGM用意しろよ!!」
「ありゃ、怖がるとは思ってたけれど、むしろ逆効果だったかな」
―体は剣で出来ている。
血潮は鉄で 心は硝子。
幾たびの戦場を越えて不敗。
ただの一度も敗走はなく、
ただの一度も理解されない。
彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。
故に、生涯に意味はなく。
この体は、無限の剣で出来ていた!!
「士乃!!」
「こ、れは…」
豊久の後をついて行き追い付いた夢乙女達は、士乃の固有結界に目を丸くする。
「驚いたか、嬢ちゃん達」
「!!信長公…」
「これは士乃しか出来ないものなんですよ、固有結界とか言いましたか」
「滅多に使わないけれどね」
「別にあんなの使わなくったって俺達に宝具使わせりゃいいのににゃー」
「宝具も宝具で滅多に使わせてくれませんよね」
「…俺もやりたか」
「そういやお豊、お前さっき何かに後頭部殴られたか」
「!?」
ばっ!!と夢乙女達の視線が豊久に集まる。
「あぁ、それなら僕が1発…ね。目的忘れて主と手合わせやってたものだから。だけど、よく分かったね?」
「おい、おいこらお豊」
「…すんもはん」
「後で士乃から説教です。あぁ、質問に答えるとするならば、士乃とお豊は特別なぱす、とやらで繋がっているので感覚も僅かながら共有しているんですよ」
「感覚共有、ね」
視線を士乃に戻すと、薬研藤四郎を盾にしていた女審神者の両腕が吹き飛んだ所だった。
「…あんな見た目して、割とえげつねぇなあの女」
ぼそり、と夢乙女の所の同田貫が呟く。
「昔から2人揃ってそうでしたよー」
「その度に尻拭いさせられる俺達よなー」
「あははは、今だってそう変わりないじゃないか」
どすどすっ、と言葉の矢が豊久に容赦無く突き刺さる。
その後ろで、女審神者の端正な顔が苦痛に歪められたまま、ぽーんと宙を舞った。
「ただいまー…ってお豊どしたの、SAN値0なんだけど…」
顔や手に付いた返り血を拭いながら首を傾げる士乃。
「「いんや何にもー」」
「ぬしゃら…覚えちょけよ…」
「いい意味でも悪い意味でも仲がいいんだな」
と、苦笑する夢乙女だった。