ネタ部屋 | ナノ


「今日から皆と一緒にお勉強する事になった子や。仲良うしいや」
「えみやしの、です」
「(なんやけったいないろしたかみやなぁ…)」

癖のついたフワフワとしたセミロングの赤毛が印象的な女の子だった。
糸目と言うのか、閉じられた瞼からは瞳は見えず少しばかり違和感を感じる。
そして、何より目立つのはその口調だった。

「なんや、とーきょーのもんか」
「とかいのやつがおーさかになんのようやねん」
「(やっぱりなぁ…)」

茶化すクラスメイトを冷ややかな目で見る平次。
当の本人は俯いたまま何も言わないが。

「ほな、衛宮さんは服部君の隣やな」
「(げぇっ…!!こっちくるんかいな…!!)」

隣に座った士乃を横目で見る。
小学生にしてはやや整った顔立ちをしており、その証拠に一部の男子は顔を赤らめている。

「あー、はっとりへいじや。よろしゅう」
「えみやしの、です。よろしくおねがいします」

ぺこっと頭を下げて、再び前を向く士乃。
そのまま休み時間に入ると、士乃の周りを人が覆う。

「なぁなぁ!しのちゃんってよんでええ?」
「かわったかみのけやね!!さわってええ?」

こんな風に大勢の人に囲まれる事に慣れていないらしく、あわあわとどうするべきか困惑している士乃。
と、教室のドアが開き士乃と似た顔立ちの少年が入ってくる。

「!しろう!」
「しの、だいじょうぶか?」
「う、うん…」

同じ癖のついたフワフワとした赤毛、とろりとした蜂蜜色の大きな瞳、見れば見る程似ている。

「え、えっと、しのちゃん…?このおとこのこは…?」
「あぁ、わるい。おれはえみやしろう。しのとはふたごなんだ」
「「ふたご!?」」
「(こらまた…)」
「えー!!すごーい!そっくり!!」
「どっちがうえなん??」
「え、あ、えっと…」
「しの、おちつけ」
「なんや、そんなんめずらしくもないやん」

とある男子の一言で教室が静まり返る。

「ってかなんやそのかみのけ。びょーきなんか?」
「さわったらうつるんやろ!こっちくんなや!」
「…」
「ちょっとだんし!!そんなことないやん!」
「あかいろのかみ、かわいいやんか!!」

女子が士乃を庇うも男子は聞く耳を持たない。
そのうち休み時間も終わり、全員が席に戻る。

「じゃあな、しの。かえりは…」
「ひとりでかえれるよ」
「でも…」
「か え れ る よ !!」

渋々と教室へと帰る士郎。
席に座った士乃に頬杖をつきながら平次が問う。

「なんでいいかえさへんねん」
「…え、わたし?」
「おまえいがいにだれがおんねん」
「たしかに…うーん、おおさかじんなりのボケをわるぐちにきたいしてるから??」
「…なんでやねん」
「さすがにてをだされたら、やりかえさないじしんはないけどね」

そう言って無邪気に笑った士乃を見て赤くなる平次。

「(なんやねんこれ…!!かおあっつ…!!)」
「??どうかした??」
「なんもないわ!!あっちむけ!!」
「なんでさ」

その日の放課後、友人である和葉を待たずに先に帰ろうと正門へ向かっていると…

「やーい!!へんなかみのけ!!」
「びょーきなんやろ!!がっこーくんなや!!」
「(またやっとる…あほくさ…)」

クラスの男子達に囲まれ、小突かれている士乃が居た。

「…いいたいことは、それだけ??」
「「っ!!」」

先程までとは違い、地を這うような抑揚のない声が士乃から発せられた。

「わるぐちがてんぷれすぎ、なんもおもしろくないよ。おおさかじんならもうすこしひねっておもしろいわるぐちいえないの?もしかしてにせもののおおさかじんなの??やーいにせもの、くやしかったらなんかおもしろいこといえよ。わたしをわらわせてみせなよ」
「ひっ…!!」
「でかいくちきいてたわりにはびびりなんだね、つまらないの」

はん、と鼻で笑った士乃に涙目の男子達。
男子達は士乃の変わりようにビビって何も言い返せない。

「(おんなってこっわ…)」
「う、るせぇ!!みためがへんなやつにへんっていってなにがわるいんだよ!!びょーきもちはおーさかからでていけよ!!」

と、足元にあった石を拾って士乃目掛けて投げつける男子。

(ぱしっ、)
「!!」
「…なにしてんねん」
「は、はっとり…」

いつの間にか男子達と士乃の間に立った平次が投げつけられた石をキャッチした。

「えみやがものつこうておまえらになにかしたか?あ?なんでいっちゃんつよいやつが、ひきょうなまねすんねん!!」
「そ、れは…」
「それにいしがえみやのかおにあたったらどないすんねん!!おおけがやぞ!!せきにんとれんのか!?」
「っ…」
「はっとり、もういいよ」
「っ、えみや…」
「たすけてくれてありがとう、うれしかったよ」

石を掴んでいない手を優しく握られ、再びぐわっと首まで赤くなる平次。

「な、あ…!!」
「はっとりは、わたしのひーろーだね」

ふうわりと笑った士乃を直視した平次は、ばっ!!と掴まれた手を振り払うとそのままダッシュで帰っていった。










「私と平次との出会いはそんな感じかなぁ」
「確かに珍しい赤毛だもんね…それから?」
「それから平次と仲良くなりたくなった私がしつこい位に平次にまとわりついてね。折れた平次と、平次が紹介してくれた和葉と今までずっと一緒ってわけ」

大阪にあるとあるカフェにて。
大阪観光に来ていた蘭やコナンと偶然会った士乃が、蘭に平次との出会いについて聞かれた為にお茶をしながら語っていた。

「和葉は和葉で士郎にべったりだったし…」
「見て分かるくらい恋してるもんねぇ」
「士乃姉ちゃんは平次兄ちゃんの事、好きじゃないの?」

コナンがにんまりと笑いながらそう問うた。

「え?何で?」
「いや、何でって…」
「(あんな分かりやすいアピールされてんのに気付いてねぇのかよ…!!)」
「平次にとって私はただの口煩い幼馴染みでしかないって」

けらけらと笑いながら紅茶を飲む士乃。
それを聞いた蘭とコナンは、互いに顔を見合わせて溜息を一つ。

「え、何?」
「別に…」
「(前途多難だぜ服部…)」

士乃が平次からの好意に気が付くのはいつになる事やら…
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