ぽけFate | ナノ
「ライモンシティに着いたはいいが…あの双子に見つからずに空港までのトレインに乗るにはどうしたら良いかな」

あの双子…このライモンシティ名物であり移動手段の要と言ってもいいトレインの車掌であるノボリとクダリは、士郎を見かけるといつもバトルをせがんでくる。
やめろ、今の手持ちは1匹だけなんだよ。

「そろそろ空港行きのトレインが出るな…」

乗り場まで無事に辿り着き、後は乗るだけ…だった筈なのに。

「あー!士郎君見っけ!」
「士郎様、今日こそは私達とバトルを!」
「見つかった!」

これはまた、面倒くさい事になる。
と、その時だった。

「クロバット、"くろいきり"」

その言葉と同時に周りが黒い煙に包まれる。

「!!これ…」
「士郎、こっちだ」
「やっぱりじいさん!」
「早く、外に車を待たせているから」

切嗣に手を引かれ、駅の外に停めてあった車に乗り込む。

「じいさん仕事は!」
「断ってきた」
「は!?」
「大した金にもならない依頼だったからな。舞弥、出せ」
「分かりました」

快調に車を走らせる。
ちなみに、切嗣はこの世界ではポケモンと舞弥と一緒にSPのような仕事をしている。

「到着しました」
「僕が手続きをしてくるから、舞弥は士郎と一緒に居ろ」
「はい」

いつものように黒いコートをはためかせて、受け付けへと向かった。

「じいさん…急にどうしたんだよ」
「…これは、私の独り言なので無視しても構わないのですが」
「はぁ…?」

舞弥が士郎を見て、やんわりと微笑む。

「一人息子の出立を見送れないで、何が父親だ、とあの人が」
「!?」
「今まで仕事ばかりで父親らしい事をしてやれなかったので、これくらいは、とも言ってましたね」
「…不器用かよ」

くすくす笑う舞弥を横目に、少し赤くなった頬を掻く。

「士郎、チケット取れた…舞弥?何を笑っているんだ?」
「いいえ、別に何も。私は車に戻ってますね」
「(今2人きりにするか普通!!)」

気まずい空気が流れる。

「…」
「…」
「…」
「…」
「…士郎」
「!!」
「たまには、連絡を寄越しなさい」

ぽん、と頭を撫でられる。

「…そう言うなら、じいさんも母さんやイリヤに連絡してやってくれよ」
「ぐっ…」
「この間イリヤがじいさんの顔ってどんな感じだったか忘れちゃった、って言ってたぞ」
「…それはまずいな」

へにゃり、と苦笑する切嗣。

「そろそろ搭乗時間だ」
「ん…じいさん」
「??」
「きちんとバランスの取れた食事を心がけて、身だしなみもきちんとして、睡眠時間もきちんと取って、それから…」
「別れ際に言う事がそれ…??」
「それから…その、行ってきます」
「!!あぁ、気を付けて」

チケットを受け取り、照れ隠しのつもりか駆け足で搭乗口へと向かう士郎を見送り、車へと戻る。

「行きましたか」
「…余計な事言ってないだろうね?」
「いえ、別に?」

ゆっくりと走り出す車。
その進路は着実に自宅を目指していた。
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