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「レイシフト、無事完了です先輩…うわぁ、凄い…!!」
「昔の街並みって感じだね」

黒髪の男性が目を輝かせて街並みを見ている薄紫色の髪を持つ女性の頭を撫でる。

「せ、先輩…?」
「ん?」
「あの、何故頭を…」
「マシュが可愛くてつい」

男性の言葉にかぁぁっと顔を赤くするマシュと呼ばれた女性。
それを夕焼け色の髪を持つ女性が白けた目で見つつ、拠点をどうしようかと考えていればどこからともなくバイクのエンジン音が聞こえてきた。

「っ、何…」
「っは、はぁっ…!!」

音のした方向を見れば、2台のバイクに追いかけられてる女性が。
だいぶ逃げ回っていたのか、息も途切れ途切れになっている。

「っ、アサシン!!」
「はいよぉ」

召喚した新宿のアサシンが女性を保護し、マシュ達の所へ戻ってくる。
そんな4人の前に黒々としたバイクが停まる。

「…ねぇ、悪い事は言わないからさ、その子を渡してくれないかな」
「…嫌だって言ったら」
「無理やりにでも取り返すだけだ」

バイクから降り、フルフェイスヘルメットを取ったバイクの運転手。

「うわ、イケメン」
「立香」
「てへぺろ」
「ね、ねぇおかしいよこんなの!!雅貴も広斗も目を覚まして!!」
「どうして?兄貴が帰ってきたんだよ?ねぇ灯真ちゃん?この方が幸せじゃない」

そう言ってにっこり笑った雅貴と呼ばれた茶髪の男性。
だが、その目は笑っていない。

「帰ってこい灯真、兄貴もお前を待っている」
「嫌だ!!あの人は尊龍さんじゃない!!違う!!2人共おかしいよ…!!」
「灯真ちゃん…」
「嫌がっているレディを無理やり連れて行こうだなんて、随分野蛮な事してくれるじゃん」

灯真と呼ばれた女性の肩を抱く男性。
その瞬間、雅貴の顔が険しくなる。

「…俺の灯真ちゃんに触らないでくれる?」
「俺のって…」
「…今の雅貴は好きじゃないもん」
「え、えっ!?」
「へぇ、2人は恋仲って事か」

アサシンの言葉にぱっ!!を手を離す男性。

「そのタラシ癖何とかしなよ」
「う、煩いな…」
「ねぇ兄さん方、ここは一旦引いちゃくれないか」
「はぁ??」
「俺もよく知らねぇ相手を殺す程、非情でも冷血でもないんでね」

にんまりと笑ったアサシン。
ぞわり、としたら得体の知れない何かが灯真の背中を駆け上がる。
そっとアサシンと距離を取ったのは言うまでもない。

「灯真ちゃんが目の前に居るのにノコノコと帰ると思う?」
「ははっ、そりゃそうだ。どんな奴だって獲物が目の前に居りゃあ逃す理由がねぇ…じゃあ、これはどうかな」
「ひゃ…!?」
「アサシン!?」

灯真を乱暴に捕らえると、その喉元を鷲掴みする。

「う、ぐ…!!」
「ねぇ兄さん方、今ここで大人しく引いてくれたら…俺は何もしねぇよ?」
「っ…」
「広斗、ここはあいつの言う通りにしよう」
「…ちっ!」

盛大な舌打ちをすると、再びフルフェイスヘルメットを被ってバイクに跨る2人。

「…灯真に何かしたら、てめぇぶち殺すからな」
「ははっ、大事な人質だぜ?そう簡単に傷つけるわけねぇだろ」
「くそっ…」

そのまま走り去るバイクを見送ると、ゆっくりとその手を離すアサシン。

「いやぁ、悪かったな!!あいつら退散させる為にちょいとアンタに無茶をした」
「げほっ…ううん、平気…」
「大丈夫ですか?」
「ありがとう…」
「災難でしたね…あぁ、私はマシュ・キリエライトと言います」
「灯真、です」
「こちらの2人は私の先輩で、藤丸先輩と立香先輩です」
「よろしくね」
「よろしくお願いします」
「あの、助けてくれてありがとう」
「ねぇ灯真さん、あの人達は…」
「…あの2人は、このSWORD地区を中心に運び屋をしている雨宮兄弟」
「運び屋…」
「…いつもは、あんな風じゃないのに…急におかしくなって…」
「…何があったか、説明してもらっても?」
「…雅貴達には、兄が居たの」

それから灯真はあの2人には尊龍という兄が居り、ここSWORD地区を救う為に自ら犠牲になり死んでしまった事、最近になりその尊龍が形見として残したUSBを巡って九龍というヤクザの組と大きな抗争があった事を語った。

「こ、抗争…」
「その抗争も決着がついて、ようやく平和になったと思ったのに…死んだ尊龍さんが、何事もなかったかのように、ある日突然帰ってきたの」
「!!」
「2人は喜んでいたけど、違うの、あれは、あの人は、尊龍さんなんかじゃない…!!だって…」






───────本物のお兄ちゃんは、あんな冷たい目なんかしてないんだから。
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