熱もあらかた引いて、ようやく起き上がれるようになった頃に、彼はやって来た。
その日はどうも寝付きが悪く、眠気がやって来るまでベッドに腰掛け本を読んでいた。
ふと、窓辺に影が見えた気がして顔を上げると…そこに、あの時の警官が立っていた。
「ひっ…!!」
「!!どうか、どうか声を上げないでください…!」
慌てた様子で声をかけて来た彼に咄嗟に頷く。
「すみません…どうしても、もう一度だけ貴女に会いたくて…」
彼の口から告げられた言葉に絶句する。
「こん、こんな…こんなおばさんに…?」
「おばさんだなんてそんな!!」
窓一枚を挟んでの会話。
顔を真っ赤にして否定の言葉を投げかけてくる彼に、次第に笑えてきてしまった。
「そこは冷えるでしょう、中にどうぞ」
窓を開けると、少し驚いたような顔をする。
「…こんな事をしている私が言うのも何ですが、不用心ですよ…??」
「こんな、もう何年も生きられるか分からないおばさんを攫ったり殺そうとしたりする物好きなんて居ませんよ」
「…もし、私がそうだとしたら?」
「あら、貴方は私の命の恩人だもの。そんな事はしないわよ」
けらけらと笑ってみせれば苦笑して窓枠に腰掛けた彼。
「自己紹介が遅れました。私はランスロットと言います。この冬木に配属された警官です」
「まぁ、警官さんが真夜中に不法侵入を?」
「れ、レディ…!!それは…!!」
「ふふふ、冗談。私は間桐雁袮よ、もうレディなんて呼ばれる年でもないから気軽に名前で呼んでちょうだいね?」
「か、雁袮さん…」
「なぁに、ランスロットさん」
「っ…わ、私は貴女に伝えたい事があってここに来ました」
腰掛けていた窓枠から立ち上がると、その場に跪くランスロットさん。
女性の中では高身長の部類に入る私よりも高い身長の彼だと、跪いても窓枠の上に顔が来てしまうから、ベッドに腰掛けていても顔だけは丸見えで。
慌てて窓枠へと近付く。
「えっ、ちょっ…」
「あの時、貴女に出会って、一目惚れをしました。しかし、貴女と私とでは身分の差など歴然です。それでも!!貴女にどうしてもこの気持ちを伝えたかった」
「!?!!?」
まさか、そんな、こんなおばさんに恋されるだなんて誰が想像出来ただろう。
「ま、待ってランスロットさん。それはきっと勘違いよ。私みたいなおばさんに恋だなんて…」
「勘違いなどではありません!」
「…」
彼の目は、本気だ。
「…ごめんなさい、貴方も知ってるように私は生まれつき病弱体質で、老い先短い命なの。それに顔もこんなに醜いわ。こんな私では貴方の隣に居る資格だなんてある訳ないの…私よりもっと素敵な女性は他にも沢山居るわ。ね?」
「…こちらこそ、急にこんな事を言ってすみませんでした」
酷く悲しそうな顔をしたランスロットさんに胸が痛む。
それでも、この先生きられるかどうか分からない私なんかより、きちんとした未来が約束されている綺麗な女性とお付き合いした方が彼の為になる。
「あの、明日も、その…来ていいですか」
「!!えっ、でも…」
「ベッドにずっと横になっていてはお暇でしょう?ですから、少しの間だけ…話をしましょう。では、また明日」
「まっ、待って…!!」
私の静止の言葉も聞かずに去ってしまったランスロットさん。
1人、残された私は…
「っーーーーーーー!!」
生まれて初めての求愛に、1人真っ赤になったままどうする事も出来ないでいた。
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