螺旋を描いて


先生に事情を説明すると、快い返事がもらえたので気兼ねなく真田くんに絵を渡すことができるようになった。私はもうひとつ、海原祭の絵の製作にもついて言ってみた。するとこれも快諾。嫌な顔をされるだろうなと思っていたので、少し気が抜けた。

帰り道に空を見上げると、数は少ないながらもきちんと星が煌めいていて、これをまた描きたいと思ったのだけれども、今日はもうおしまい。家に帰って海原祭の絵の構図や色合いを考えるのだ。
今年こそ、自分の納得いく作品を作りたい。

次の日のお昼に、真田くんに会いに行くと赤い髪の丸井くんが真田くんと話していた。正直、真田くんと笑いながら話せる丸井くんは凄いと思う。話しかけるタイミングを失った私は、教室の入り口でおろおろしているしかない。真田くんは私に気付くと丸井くんに何か言ってこちらに来てくれた。

「すまない、待たせたようだな」
「いいえ、そんなことは!あの、これ……昨日の絵です」
「あぁ、すまないな」

どう渡せばいいか迷って、結局透明なクリアファイルに挟んで渡した。真田くんは笑ってお礼をいってくれて、私の絵でよければ、なんて思ってしまう。

と、真田くんの後ろから赤い髪の毛がちらちらと見えた。

「なにやってんだよぃ、真田っ」
「丸井……ついさっき話したろう、絵を受け取っていたのだ」
「あぁ、こいつが?」
「は、はい」

丸井くんは私より大きな目をきらきらとさせて、真田くんに渡したクリアファイルを奪った。そして、クリアファイルごしに絵を見る。

「……お前、これ……ベンチに座ったか?」
「え?はい、座りましたが……」
「……確かに、幸村くんが喜びそうだな」

ニカッと笑って丸井くんはクリアファイルを真田くんに戻す。コートからの絵が、そんなに喜ばれるのだろうか。

私は入院を経験したことがないから幸村くんの気持ちは想像することしかできないのだけど……でも、私も、長期間学校から離れたら学校が恋しくなると思う。私にとっての美術室が、幸村くんにとってのコートなら……うん、嬉しい。悲しくなるけど、でも嬉しい。

丸井くんは笑ったまま、真田くんとお見舞いの話をしている。どうやら今日行くらしい。百均で額を買うかーだなんて会話をしていて、絵はお見舞いの品のメインを飾るらしいことがわかった。

「なぁ、えっと……高崎?」
「はい、高崎です」
「ありがとな!」

笑顔で言われて、胸がほっこりと暖かくなった。

もしも、幸村くんが喜んでくれるのなら……また、絵を描いて、渡してみようかな。


放課後の美術室で、私はぼんやりと窓からテニスコートを見ていた。女子テニス部が一生懸命に練習している。

「テニス部……かぁ」

私の知っているテニス部は本当に厳しくて、負けたらいけなくて、凄いんだ!という偏見混じりのものだった。

真田くんなんて見た目からして近寄りがたいし、規律第一だと思っていたから、絵をほしいなんて言われた昨日はびっくりした。丸井くんは遠くから見ていてもムードメーカーだとわかるし、実際近くで見ても元気な人だった。他にもジャッカルくんや仁王くん、柳くんに柳生くん、切原くんと、テニス部は個性的な人が集まっていると思う。

でも、幸村くんはその中でもとびきりだったと思う。

話したこともないけれど、あの人の纏う雰囲気はすごく好きだ。柔和で優しい、だけれども芯のある強さを秘めた雰囲気。

同じ学校にいても、雲の上の存在だったから、なんだか不思議な感じ。

関わりのなかった人たちに関わったからか、ずっとそんなことを考えてしまう。ぐるぐるぐる。螺旋を描いて思考回路は停止する。



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