いつだって掴めない。お前さんは雲みたいじゃのう。
ぽつりと仁王はそう言った。相羽は聞いていない。フリをしている。
いつだって掴めないのは仁王じゃない。
相羽はぽつりと言い返した。二人が屋上にいるのは、いつものこと。

「だいぶ、寒くなったのう」
「でも今日は小春日和……って仁王、日陰にいるから寒いんだよ」
「おぉ、そうじゃな」
「気付くのおそっ」

もう十二月。クリスマスに年越しお正月とイベントが目白押しな冬がやってきた。雪が降ることは滅多にない神奈川だけれど、やはり寒いものは寒いのだ。いくら小春日和とはいえ、吹く風が冬のそれなら体感温度はなお低い。
相羽は持参してきた膝掛けを膝にかけて体育座りをしている。短めにしているスカートは、足が寒いし座ると下着が見えてしまう。相羽の冬の屋上での必需品である。

「あ、今日、仁王誕生日じゃん」
「おぉ、やっと気付きよった」
「あは、記憶能力に乏しくて」
「脳細胞の死滅が早いんじゃなか?」
「失礼だなぁ、ただ単に覚える努力をしてないだけだよ」
「お前さん、それのほうが失礼ってことに気付いて言っとる?」

よいしょと相羽の隣に座る仁王に膝掛けを半分わけてやれば、仁王はフッと笑ってありがとさんと言う。
見てて寒いだけ、と相羽が返せば、きょとんとしてまた笑う。

「はっぴばーすでーとぅーゆー」
「さんきゅー」
「ゆあーうぇるかむ」

まるっきり日本語発音の英語でお互いゆるいお祝いをする。
相羽はまだ青い空を見上げてはぁ、と息を吐く。何が小春日和だ、吐く息は白いじゃないか。お天気お姉さんの予報が珍しく外れて小春日和のはずの今日は寒い。
それでも毛布と隣にあるぬくもりと太陽の相乗効果でぽかぽかと体は暖まってきていて、だんだん相羽の瞼は重くなっていく。

「ねむー」
「寝ればいいじゃろ」
「寝たらきっと起きられない」

まだ昼休み、あと二時間授業は残っている。

「起こしちゃる」
「仁王、ぜったいだかんね」
「大丈夫じゃ、義務教育中なら多少の無茶も許される」
「めちゃめちゃサボる気満々じゃないっすか」

まぁいい、ここは仁王の言葉に甘えておこう。
隣の肩に頭を乗せて寝る準備は万端である。冷たい風に吹かれて顔が冷たいが、それは相羽にとって支障のない程度のものだ。

「おやすみー」
「おう」
「……」
「髪さらさらじゃな」
「……」
「あ、枝毛発見」
「うっさいなー、寝かせる気ないでしょ」
「あ、わかったか」
「誰だってわかるっつの」

だったら起こしてやるとか言うなよ。心中でそうつっこみ、相羽はため息を吐いた。白い息は空に昇っていってだんだんと消える。
すぐどこか行く、仁王のようだと相羽は思った。

「ねー仁王」
「なんじゃ」
「今度の部活のオフ、遊びいこ。ブンブンとあかやも誘ってささやかな仁王生誕ぱーてぃー」
「丸井と赤也を呼ぶ理由は?」
「金が足りなさそうなので割り勘目的」
「……そうじゃな。どこか食いに行くか」


ふわふわ、君とどこまでも
(あーぁ、金があったら仁王と二人だったのに)



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