「ねぇ、せー」
「何、梓」

暖かい。もう季節は冬だというのに、校舎の中は暖房がきいていて眠気を誘う心地よさだ。相羽の目の前には真っ白な進路調査がおいてあり、何度も叩いたのかシャー芯で出来た点々が散らばっている。
決まらないのか、はぁと小さな溜め息を相羽はついた。

「進路……どうしよ」
「梓は、何がしたいの?」

ただぼんやりと時間を過ごしてきた。ただみんなと馬鹿やって騒いだり何か一つのことに夢中になったりテスト勉強に追われたり。
そんな毎日が続くと思っていたのだ。
あぁ何を馬鹿なことを。

「……外部受験を、しようと思うんだ」
「……そう、」
「でも、その先に」

思い描いた世界が広がっているのかわからなくて。
そんな言葉を飲み干す。気を抜いたら自分の不安をぶちまけてしまいそうで、相羽は唇の裏側を噛む。
目指しているものが、ある。みんなはきらきらと輝いて見えて、だけれども自分はそんな目指しているものが見えない。ただなんとなく入学して、進学して、卒業していく。それでいいのか、と何度も自分に聞いてみても、わからないの一点張り。

「(わからないんじゃない、わかりたくないだけ)」
「……梓?」
「なんでも、ない。みんながいないのかと思ったら、寂しくって」

半分、本当。半分、嘘。
くるくるっとペン回しをして、相羽はもう一度空欄の紙にさらさらと記入をした。
外部受験をして、どうする?わからない。

「ここは、ネバーランドじゃないから」

変化していく。世界は、人間は、変わっていく。
それはいい方にもわるい方にも変わっていく。
さっきまで明るく世界を照らしていた太陽も今では赤く燃える夕焼けに、この前まで短かった髪も伸びて、時間も過ぎていく。

「みんな、変わってく。成長して、いつかは大人になって、」

「それがこわい」

いつかみんな変わってしまう。今まで得てきたものもすべて意味のないものとなってしまう可能性だってある。
そんな相羽を見て、幸村は小さく呟いた。

「俺は、ネバーランドなんていらない」

「立ち止まっていたくない」

夕日に照らされて幸村の顔は夕日色に染まった。


ネバーランド


「ねぇ、せー」
「何、梓」
「いつか、思い出話ができたいいね」
「……あぁ」
「変わらない毎日を、変わらない思い出にしたい」

あぁネバーランドは存在などしないのだ。



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