ねぇ、ねぇ、私思うのだけれど。シンデレラは靴をわざと置いてったのよ!私が小さいころ読んだ絵本では、十二時になってしまうと焦っていたら、脱げてしまったってあったの。みすぼらしい自分を見てほしくなくて、逃げ出したそうなんだけど。

「私は違うと思う」
「ほぉ、なんでじゃ」

隣にいる仁王にそう言えば興味なさそうに返された。屋上で二人きり、今日は短縮授業で部活もない。ぽかぽかと暖かくて寝てしまいそうだ。フェンスに寄りかかる。
私は眠気を覚ますために少し頭を振って続けた。

「だってね、ガラスの靴、だよ?普通の靴みたいに歩くときに曲がったりしないじゃない?」
「そうじゃな」
「曲がらないから走ったって足の甲やかかとが痛いだけだと思うし、靴を脱ぐなら少しかかとをあげて後ろにひく必要があるでしょ?」

そんなこと、逃げ出したシンデレラがするかしら。そう言うと仁王はさぁなと言った。冷たい。
シンデレラはきっと逃げ出したんじゃない。

「人は秘密があったほうが魅力的、とか言うのと同じ」
「自分に興味を持たせるために、靴を置いてった、と?」
「そう」
「悪女じゃな、シンデレラ」

愛されたいからよ。どんな手を使っても振り向いてほしかった。だから、秘密や神秘的な自分をちらつかせて王子を釣ったんだわ。
悪女といったら聞こえは悪いけど、でも愛されたいんだから仕方がないんじゃない?

「私だってそうよ。気になった人には愛されたいんだから」
「意外じゃな」
「人間みんな、そんなものよ」

村娘が見初められるシンデレラストーリー。小さいころ誰だって憧れたと思うの。いつかこんな恋がしたい、って。
あぁ学校の王子様。村娘の私を見初めてくれないかしら。
そんなことをぼんやり思いながら仁王を見つめていたら、頭をふわりと撫でられた。


初恋は王子様に
(私、貴方のためならいくらでも魔法をかけるわ)


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