置いていかれる、気がしていた。何処にいても自分がいなかった時間というものを感じざるをえない状況で、幸村は一人ため息をついた。
すれ違う人、楽しそうに笑う表情、入院当初よりもずいぶんと進んでいる授業、そして──自分のすべてだった、部活。
彼はあんなにも笑う人間だったろうか。身長が高かったろうか。
どうしてこんなにも、時間は過ぎているのだ。
『もうテニスはできないだろう』
違う。望んだのはこんな未来ではない。
『可哀想に、でもあの身体じゃねぇ』
違う、欲しかったのは哀れみなんかではない。
『幸村、』
望んだのは、欲しかったのは、無償で自分を信じて待ってくれる仲間だった。
太陽が憎くなったのはいつからだったか。はて、それはなぜだったか。あれほど好きだった、夢中だったものが無為に感じられたのは、どうしてだったか。覚えていない。
ただ太陽のようにあたたかくまぶしい存在の隣にいて、自分の醜さを見せつけられている気がしてならなかった、のだ。憧れていた。自分に素直に生きられる仲間に憧れていた。
自分はといえば素直であるどころかひどくひねくれていて、荒さが目立つ。結局は自分のために行動するような人間で、自分のことで手一杯だからこそ周りを気遣うふりをする。
『俺たちは無敗でお前を待つ!』
笑顔を向けた。
その裏には嫉み妬みが渦巻いていた。なんと愚かな。醜い感情に突き動かされてしまわぬように呟いた。
『あぁ、』
結局言葉を続けることができず、幸村は静かに微笑んだ。

「……幸村?」
「……、あぁ、ごめん。考え事してたんだ」
正式に退院が決まってから、不意に、記憶が意味もなくよみがえってくることがあった。それは自分を責めているのかそれとも励ましているのかわからない。この数ヶ月切り取った空を見続けていたが、今日からもう一度広い空の下に立つ。未だに実感がわかない、と小さく笑う幸村に、相羽も微笑みを返した。
病院から外に踏み出す。夏の太陽が眩しい。目を細めて前を見ると、そこにはユニフォーム姿の部員全員が集合していた。
「相羽、早くこっちこい!」
「ごめんっ」
自分の隣にいた相羽が小走りで部員たちのほうへ向かう。幸村の足は動かなかった。
自分がいなくとも成り立っていた部活に、足を踏み入れる恐怖。自分の惨めさに腹がたち、視線を下にずらす。
せーの、という掛け声が聞こえて、その次には、
「おかえりなさい、幸村部長!!」
纏まりのない声が聞こえた。掛け声をした意味など感じられない、彼らがそれぞれ思い思いのタイミングで発した言葉。
幸村はそれにつられるように視線を上げ、部員を見た。笑っているもの真面目な顔をしているもの泣いているもの──さまざまだ。
「ただいま」
くしゃっと顔を歪めて、いつぶりかの笑顔で歩み寄る。
仲間と臨む全国大会まで、あとわずか。抱えていたもやもやとしたものはいつのまにかなくなっていた。


夏の日、駐車場にて

そして彼らは常勝を背負う。


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