掴みたいのだ



頭ではわかってはいるんだ。奈津子は清楚で可愛い女の子って感じで、柳生が惚れるのもよくわかる。女の子らしい女の子と紳士、うん、似合うカップル。
でも、だからといって納得できるかどうかは別だ。

「……はぁ」

イラつく。一向に変わることのないこの四角関係。早く、柳生と奈津子、進展してくれ。そして、あたしを諦めさせて、だなんてなんと傲慢な。自分本位の考え方に嫌気が差す。
放課後の教室。委員会の収集が終わったそこは、一人だけが残っている。あたしは一呼吸おいてからガラッと教室のドアをあける。

「待たせてごめんねー」
「いえ、こちらこそ」
「いいの。あたしが好きでやってるんだから」

諦めさせて。
今日は委員会の集まりがあって、委員会に入っている人は全員部活に遅れる。だから、あたしと柳生はそのときを狙って会う。書記であるあたし達は、多少遅れても、会議内容をまとめていたと言えば少しは許される。
案の定教室にいるのは柳生だ。あたしはこれから柳生に告白をするのではない。柳生の恋愛相談にのるのだ。あぁ、たしか、柳生が奈津子を好きなのだと知ったその日から始まったことだったっけ。平静を装って奈津子の話をすると柳生は顔を少し赤くしてコホンと咳払いをして誤魔化そうとする。
あたしの話では、そんな顔しないのにな。

「奈津子とうまくいくといいね」
「……えぇ」
「絶対に“仁王くんに譲ります”だとか言わないでよ?」
「当たり前です」

好きな人の恋愛相談にのる。つまり彼にとってあたしは、大事な親友。
世間の恋する女の子には批判されそうだが、失恋決定的なあたしにとってこの親友ポジションはすがりつける最後の砦。親友としてでもいい。
近くにいたい、のだ。

「今日一緒に帰ったら?方向一緒でしょ」
「ですが、そんないきなり……」
「誘うのが嫌だったらさも偶然のように話しかけなよ。流れで一緒に帰るようになるよ」

いつも奈津子はあたしと帰ってる。だから、あたしに用事があると一人で帰ることになるのだ。あたしも親友を一人で帰すのは心苦しいんだ。それで、いいじゃないか。それで。
携帯がぶるる、とポケットで震える。あたしは届いたメールをちらりと読んでから柳生に言った。

「今日もまた部活あるんでしょ?」
「えぇ、ありますが」
「あたし、今日いきなり部活のあと用事ができたから」
「相澤さん、」
「帰りは奈津子一人だな、あーぁ」

強引だってわかってる。でも、こうでもしないと柳生は行動にうつさないから。
あたしは、意味わかるよね、と柳生に目配せして教室を出る。右手にはメール画面が開きっぱなしの携帯。

──今日一緒に帰らんか?──

なんとタイミングのいいこと。仁王には悪いけど、これを理由に柳生の背中をまた押せた。いや、押したというより蹴り飛ばしたと形容するほうが適切かもしれないけど。

──いいよ、みんな帰ったあと裏門で──

貴方の好意を悪用して、ごめんね。それでも、掴みたいのだ。あの人の近くにいられる理由を。







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