あい・らぶ・ぴーす! | ナノ


これからの作戦は至ってシンプルである。お札の複製を作って、朝一番に美術室に忍び込んで複製を戻す。以上。

私は跡部さんにメールでお札を持ち帰るように言われた。持ち帰って、使用人に渡せばいいのだそうだ。そのあとは勝手にお札をなんか美術品のどこかに渡してレプリカを作るらしい。さすが金持ち、複製のレベルが違う。私がやったらきっと半紙と墨汁と己の技術での複製になるだろう。

とりあえず家に帰れと指令が作戦を立てた跡部さんから下ったのでベンツに乗ってお家に帰っている。のだけれど。

「……」

さっきから同じような塀が続いている。最初は米軍基地かなぁと思ったけれどあまりに場所がずれているのでそれはない。嫌な予感しかしない。

「……」

認めません。この塀の中すべてが跡部さんの敷地だなんて。どれだけ金かけてるんだよ。どれだけ税金かかってるんだよ。相続税どれだけかかるのよこの土地。税金払ってもなお学校であんな好き勝手できるお金があるなんて羨ましい。私の家なんてあっぷあっぷして大変なのに。

世の中、やはり金なのか。絶対にご飯は高級な味がして、スナック菓子が恋しくなるんだろうな。

「あ」

ちょっと待てよ。私が跡部さんの家に行く。跡部さんの身体に入っちゃってるから。跡部さんは私の家に行く。私の身体に入っちゃってるから。

まずくないか。跡部さんの家はこんなにでかいんだ、私の家なんてボロクソに言われるにちがいない。なんで解きかけの数学のノートを机に起きっぱにしたんだ今日の朝の私。あ、寝坊したからか。
あれ計算間違えてるんだよね確か。足し算すべきところをかけてるんだよね。

「(馬鹿にされる……!)」

あぁあ時間を止めて神様、もしくは巻き戻して。魔法は12時になったらとけていいから!!いやダメだやっぱりとけちゃダメ。

悩んだ末に、携帯をパカッと開けてメールを打つ。女子学生のメールタイピング速度をなめてはいけない。あっという間にメールの出来上がりだ。

『ノートは乙女のスリーサイズと同等の価値があるので見ないでください』

完璧。
送信すると数分で返事が帰ってきた。お前の家どこだよ……あれ、私教えてなかったっけ。あぁ教えてなかったな。電話帳で跡部さんの番号を出してかける。にしても、自分の声が携帯で聞こえるって変な感じ。

「もしもし」
『お前んちどこだ』
「学校でて青い建物的なところを曲がってカレー屋を曲がって」
『詳しく言え、詳しく』

仕方がないから詳しく教える。なんだか私が教えてあげているのに偉そうな態度だったから、嫌がらせに自販機の炭酸の値段とかカレー屋のオススメメニューとか話して混乱させてみる。

そんな小さな復讐をしていたら、関係ないことを言うたびに一でこぴんするぞと言われた。私の復讐よりも跡部さんの器は小さいようだ。……と、こんなことを言ったら本当にでこぴんされそうだ。跡部さんのでこぴんすごく痛そう。

「家、わかりましたか?」
『……恐らく、な』
「じゃぁ何かあったら電話かメールください」
『ああ』
「さよならー」

電源ボタン連打。
ベンツがすっと止まる。この運転手さんの技術凄い。私のお母さんの運転だと止まるとき慣性がはたらいて前に行くしカーブするときなんて激しい遠心力を感じる。お尻の位置がずれる。やはり一般人の運転レベルとは比べ物にならない。

そしてドアが使用人さんによって開けられると目の前に飛び込んできたのはお城だった。

なんじゃこりゃ、と叫びそうになったけれど平静を保った自分に拍手を送りたい。綺麗に整えられた庭、私が歩くと左右に分かれてお辞儀をしている使用人さんたち。冷や汗が止まらない中私はようやく理解した。あぁそうか、豚に真珠とはこのことなのか。