あい・らぶ・ぴーす! | ナノ


まず、いつも自信を持つことだな。自分以外は全くの下等生物と思え。じゃなきゃ天野に俺の振る舞いはできねぇよ。

跡部さんから言われた言葉が頭の中を駆け抜ける。でも待て。待て。人目につかないように美術室にいこうと思ったら、何故だか人気のないところでテニス部のレギュラーである忍足さんとバッタリ出会ってしまったんだが。正直跡部さんよりもかっこよいというフィルターのかかった私の視界では忍足さんを下等生物だなんて思えません跡部さんごめんなさい。

ああぁ忍足さんかっこよいです跡部さんより。

「奇遇やな、跡部。こないなところで」
「あ、あぁそうだな……」

私がここで変な行動をすると完璧にバレてしまうだろう。忍足さんは洞察力の優れた人であるし。

ん?でもここでバレるっていうのも一種の手じゃない?手伝ってくれたらなお美味しい状況じゃないか!手伝ってくれたことで愛が芽生えて、なんて少女漫画の王道じゃないか!

「……!」
「跡部?」

でもだめだ、それはいけない。私が変な行動をする。すると、それを見ている生徒がその失態をばらす。最終的に跡部さん怒りの鉄拳が炸裂。完璧なる死亡フラグじゃないか。危ない。

ここはさも探し物をしているかのように振る舞えばいい。今目の前にいるのは忍足さんじゃなくて、えっと……み、ミカヅキモだ。ミカヅキモがうにょうにょと動いていると考えればいいんだ。探し物は……そうだなぁ、お札の場所がわかっているんだからお地蔵さまにしておこう。情報がもらえたら一石二鳥だし。

「……忍足、お前……地蔵を見なかったか」
「は?」
「地蔵だ地蔵」

できることなら、この場を去ってくれ。ボロが出る前に、“俺も探してくるわ”と言ってこの場を去ってくれ。いや去ってください。

どきどきしながら忍足さんの返答を待っていると、忍足さんはくくっと笑った。なんでそんな仕草も素敵なんですか、美形ってなんでも許されるって羨ましいです。あ、違う違う。ミカヅキモが動いているんだ。

「それ、一年前に跡部が部室に飾ったもんやない?」
「……は?」

跡部さん、跡部さん。もしかして貴方がこういう目にあったのは地蔵さまをそんな風にオブジェみたいに扱ったからじゃないんですか。天罰じゃないんですか。自業自得じゃないですか!!

ふらり、と世界が揺れた気がする。立ちくらみかな。まさかすぎて、きっと思考がついていかないんだ。

「……あぁ、そうだったな」
「なんで地蔵なんて飾っとるん?」
「……趣味だ」

跡部さんの考えなんて知りません。なんて言えず、当たり障りのないことを答えておく。

あぁ、地蔵に心当たりがあったから跡部さんは私にお札を探すように言ったのか。納得です。お札、美術室にあるとか言っていたよな。よし、行こう、そしてさっさと私の平穏ライフを取り戻すのだ。

私は忍足さんに別れを告げて嫌みなほど長い跡部さんの足を動かして美術室に向かう。

お札なんてどこにあるんだろう。きっと奥深くに眠ってたりするのかな。うわぁ嫌だ、めんどくさい。そういうお宝探し、昔から苦手なんだよね。

「……失礼します」

美術室のドアを静かに開けると先生はいなくて、美術部員もいない。いつもと同じように多くの絵が壁にかけられている。きっとお札なのだから隠されているのだろう、と一つ一つ額縁や額の裏を探していると、目につくものがあった。

「……め、」

それは額縁に入れられて飾られているお札。なんて書いてあるかはわからない。

「(めちゃくちゃ飾られてるー!!)」

こんなもんとったらバレるわ!!盗難だっての盗難!!だいたいなんでお札を額に入れて飾ってんだこの学校は!!

……とりあえずお札を見つけたから、跡部さんに電話をかけた。ラストチャンスは、今なのだ。周りには誰もいない。きょろきょろと見回して、額縁を手に取った。

「……もしもし」
『どうした』
「お札見つけました。額縁にはいって飾られているので抜き取って持っていきます」
『あぁわかった。複製の手配は整えておく』

盗難事件になってしまうだろうか。でも、返すから。複製のお札だけど、返すから。だから、と自分に言い聞かせて、私は額縁からお札を抜いて懐に入れた。

心臓が、これ以上ないくらいに動いていた。