あい・らぶ・ぴーす! | ナノ


「幽霊さんがいったい……なぜ……?」
『あら、幽霊さんなんてやめてちょうだい。私にはアリサって名前があるの』

アリサはくるりと一回転して、ふふふと笑った。長い黒髪がふわりと浮いて、氷帝の制服もゆらりと揺れた。

『……あら、貴方たちも中身が入れ替わってるのね』
「ごめんなさい全く話が見えないんですが」
「も、ってことは、俺たち以外にもいるのか」
『……あら、なんにも知らないのね。最近この近辺でおかしなことが起きてるの。それこそ、あなたたちみたいに精神が入れ替わったり』
「なぜ、俺たちなんだ」

アリサが言うには、最近幽霊たちの間でもおかしいことが起きていて、生きている人間にもそういう変なことが起きているらしくて。例えば中身が入れ替わったり、突然幽霊が見えるようになったり動物の言葉がわかるようになったり。

よくわからないけれど、お地蔵さまに貼ってあったお札がはがれたかなにかで、土地の力がおかしくなってしまったとか。うん、よくわからない。

『簡単な理由よ。あなたたち霊にとても影響されやすいから』
「それは…?」
『男には数えきれないくらいの女の生き霊、女には一人の霊がべったり』
「あぁあ最近金縛りにあうと思ったらそのせいか……!!」
「……生き霊……」

お互いに心当たりがあるのか声に力がない。きっとあれだ、おじいちゃんだ。すっごい孫にでれでれだったから。金縛りはやめていただきたいけれどね!!

アリサはくすくす笑って、じゃぁお札を貼ってくれば?と提案する。いやいやそんなカラオケ行ってくれば?ってノリで言われてもね。

「どこにあるのかもわからないしそんな幽霊が襲ってきたらどうするんですか」
『あら、幽霊は人間を襲わないわよ』
「……襲うのは悪霊ってか」
『そう、正解』
「どっちにしろ幽霊じゃないですか!!」

人種があるように幽霊と悪霊は違うんですか。つっこんでいても仕方がない。ラチがあかない。はぁ、と溜め息をつくと跡部さんは困ったようにアリサに訊ねた。

「札を貼ればいいんだな?」
『そうね』
「どこにある」
『地蔵はこの学校のどこかにあったわね。札は……確か、美術室だったかしら。札のせいであそこ、今霊がいないもの』
「……大変!じゃぁ邪悪な跡部さんは札に触れない!」
「誰が邪悪だ誰が」

女をはべらしているんだから邪悪じゃないか。

心中でそう呟くと、跡部さんは私の着ている跡部さんの制服から携帯を出す。そしてカチカチとしばらく携帯をいじったかと思うと、今度は跡部さんが着ている私の制服にそれを入れた。

「部活は仕方ねぇから一週間家庭の事情で休むと連絡をしておいた。一週間以内に探すぞ」
「あれ、何ですかこの王道少年漫画みたいなノリは。一週間って、意外と短いんですよ?」
「それ以上休んでいられねぇよ」

真面目。また意外な面を発見した。

私は特に部活に入っているわけではなく、れっきとした帰宅部だ。だから私のほうが動ける時間はあるはず。跡部さん頑張れ。私はきっと怪しまれないようにするので精一杯です。

「お前は今日札を見つけてから帰れ。振る舞いに関しては随時連絡する」
「はぁ、わかりました。……って跡部さん勝手に私の携帯操作しないでください」

電話帳に一件、増えました。

跡部景吾。そのデータを開くと、メアドと携帯番号、そして静止画登録には添付画像のバラの花束。これは一体どうしたものか。いやいや、自分のキメ顔じゃないだけマシだ、うんそうだ。

一人で頷いていれば、跡部さんは私を見上げて睨み付けた。私の防御力ががくっと下がった。

「それじゃぁ、お札を見つけたら連絡いれますね」
「あぁ。いいか、絶対にボロを出すなよ」
「……はい」
「目をあわせて返事をしろ!」
「イェッサー!」

これからどうなるのか、まったくもってわかりはしない。