あい・らぶ・ぴーす! | ナノ


お札を持って、部室のお地蔵さまの前に立つ。あぁなんかどきどきしてきた。私は、お札をお地蔵さまの頭につける。

「これで、もとに戻れる……!」

手を離すと、お札はゆっくりと、剥がれ落ちた。

「えぇっ?」
「お前きちんとつけろよ」
「く、くっつかないよどうしよう!!」
「あーん?お前のやり方がまずいんだろ。
……くっつかねぇな」

一瞬でその場の空気が変わる。やばいやばいって。え、お札をくっつけてハッピーエンドじゃないのこれ。

普通のファンタジー小説だったらこれで元通り、二人の間に恋が芽生えて……みたいなさ!別に恋芽生えなくていいんだけどさ、今は!どうして?おでこでも背中でもないならどこにくっつけろっていうんだよこのお地蔵さまは……!

パニック状態になった私たちは、あの手この手でお地蔵さまとお札をくっつける。が、どうやってもくっつかない。

「お、落ち着きましょう跡部さん!!」
「あ、あぁそうだな」
「落ち着け……もちつくんだ!」
「餅をついてどうする!」
「美味しいです!」
「俺は雑煮派だ」
「きっと私たちの心が美しくないからくっつかないんですよきっと!!」
「んなことねぇ!!俺様はいつだって美しい!」
「外見については聞いてないですよ!!」

焦って二人でいろいろなところにくっつける。お腹耳鼻足腕……考えられるところすべてにくっつける。くっつかない。

どうしてどうして、あぁ神様!

「あと考えられるのはここしかない……唇の間に、挟まれー!!」
「天野!!そこはたかだか二ミリ程度しかでっぱりがない……俺様の眼力なら手に取るようにわかる、物理学的に札がそこに挟まることはありえないぜ!!」
「くっ……さすが跡部さんの眼力は半端じゃない!」

どうすればいいのかわからず、拝んでみたり拭いてみたり脅してみたり色仕掛けしてみたりいろいろしたけど、お札は貼りつかないし無理だ。うん、無理。

「諦めましょうか。跡部さん、立派なれでぃとして生きましょう。私も心清いじぇんとるめんとして生きていきます」
「俺は諦めねぇぜ……」
「私、がんばって女の子に恋しますから。可愛らしい女の子を妻にして生きていきます」
「俺は男に恋なんてしない」
「いっそのこと私が跡部さんを妻にしましょうか。素を見せられる人がいないと私死にます」
「お前と結婚するくらいならマンドリルと結婚する!」
「私はマンドリル以下!?」

跡部さんは血迷ったのか、お地蔵さまに向かって蹴りを入れる姿勢をとった。待て、そんなことしたら私の身体の足の骨がおれてしまう!止めに入ろうと羽交い締めにすると、跡部さんはじたばたと暴れだした。

くそ、私の身体のどこにこんな力が……ハッ、まさかこれは私に隠されていた未知のパワー!?

「離せよ!」
「骨が折れるからだめです!」
「どうせお前の骨だ、俺には関係ねぇ!」
「この俺様が!女の身体は大事に扱え、身重になったらどうする!お腹の赤ちゃん殺すな!」
「俺は誰とも結ばれる気なんてねぇ──」

ガツ、と跡部さんの蹴りというかヒールでの踏みつけが私の爪先に決まり、私が身体を揺らす。バランスが取れなくなり、私は羽交い締めにしたまま前に倒れた。跡部さんも、もちろん巻き込んで。

跡部さんの顔はゆっくりとお地蔵さまの頭に近付く──

「おふだっ!」

跡部さんの顔に貼りつけるように私は握りしめていたお札を設置した。ピラリ、と何か薄い紙が視界の端に映ったけれど気にする余裕もない。

お地蔵さまの顔まであと数センチ。強烈な痛みに襲われるであろう跡部さんに、私は静かに心の中で手を合わせた。このままもとに戻らないなんて、嫌がらせにも程がある。どうやったってもとに戻りたい、もとの体に!