あい・らぶ・ぴーす! | ナノ
どうしてこうなったかはわからないけれど。入れ替わって四日目の夜を迎えた。この三日間お風呂は地獄だしトイレなんて学校のはいけないからひたすら我慢だし言葉使いは気にしなきゃいけないし、大変だった。ほんっとうに大変だった。
なんたって、トイレに入るときはタオルをもって、直接触れないように見ないように細心の注意を払い、お風呂では慣れない感覚に戸惑いながらも邪念を捨て一気に体を洗わなければいけない。
でももうそんな思い出とはオサラバさ。お札の複製がついにできたのだ。
「もとに戻れるってすばらすぃでぼべらっ」
「なんかお前のその顔すげぇイラつく」
夜の学校。廊下で歓喜に震えてガッツポーズ、笑顔で跡部さんに話しかけたらノートで顔面叩かれた。暴力反対、DV反対!
あ、でもDVって家庭内暴力、だよね……跡部さんは私のお兄ちゃんでもなんでもないからDVじゃない。じゃぁなんだ、跡部さんの暴力……跡部暴力……AVか!?
「AV反対!」
「お前は真顔で何ほざいてやがる!!」
「跡部さんの暴力略してえーぶふぅっ」
「本気で黙れ!」
ノートを丸めて殴られた。地味ないやがらせは失敗か。まったく、と呆れる跡部さん。その手にはお札の偽物。時は深夜、誰もいない校内を二人で美術室へ急ぐ。深夜に学校に入れるとは、やはり跡部さんは信頼されているのだろう。私(の身体)は跡部さんの使用人と偽って学校に侵入。一介の生徒は易々と侵入できないため、まことに不本意ながらこういうことになった。
上品な長い黒地の布、目立ちすぎないけれども上質のフリル、いわゆるメイド服を着た……跡部さん(と私の身体)。
「それにしても、見事な偽物ですね」
「まぁな。さっさとすり替えて元に戻るぞ」
颯爽と歩く跡部さん。
颯爽と歩く私の身体。
颯爽と歩くメイド。
「ぶっ」
「何吹き出してんだ」
「すみません……こんなメイド服を着てる自分も面白いんですけど、何よりもメイド服を着ているのが跡部さんだと思い出したら笑いが……」
「殴られてぇか」
「勘弁してください!だってあの跡部さんがレース付きのメイドふごむべらっ!」
私の身体の筋力がないのを知ってか跡部さんは容赦ない。痛いんですけど。でも私の力では痣や骨折など引き起こせないからそれをダシに暴力をやめさせることができない。
この五分間で三回殴られたよまったくもう。そんな、殴られて喜ぶ人種じゃないんですけど私!!
跡部さんはすたすたと美術室に入っていく。額に飾られたお札をとり、偽物とすり替えてもとの位置に戻す。それはあまりにも自然な動作だった。
「手慣れてますね」
「そうか?」
「さて、部室に向かいましょうか。さっさと元に戻りましょう」
お札を渡される。まじまじと見つめてみるけれど、私にはさっき跡部さんがもっていたものとの差がわからない。
これが本当に諸悪の根源なんだろうかとさえ思ってしまう。
「……そういえば、私のおじいちゃんと跡部さんに憑いてた生き霊はとれましたかね」
「あぁ……昨日枕元で反復跳びされた」
「おじいちゃん……運動好きだったから……」
お札を少し強く握る。そして、意を決して私はお札を跡部さん(私の身体)のでこに叩きつけた。
「邪気を祓いたまえ!!」
「アホか!!」
戻れるのだ、もとの体に。私の体に。
そう考えたらどうしても気持ちは高まって、声も大きくなってしまうし少し浮かれて変な行動もとってしまう。
ピエロのように、笑う私を跡部さんもどこか優しい表情で見ていた。美術室は、もうすぐだ。
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