どうして、どうしてどうして、ねぇ、どうして?私が頑張っていなかったわけじゃない。確かに頑張りが足りない部分はあったのかもしれないけれど、でも私だって私なりに頑張っていたはず。

なのに、彼女はどうしてあんなに幸せそうで、彼女を見つめる彼らはいとおしそうで、私は。私、は。

胸が苦しい。どうしてこんなにも、差があるのだろう。努力に差があったのだろうか。今までの行いの差だろうか。それとも、生まれもった運の差、だろうか。

「……ごめん、麻奈ちゃん。私、ちょっとおばあさんに用事を頼まれてて、今日……応援できそうにないの」

苦しくて苦しくて、私は嘘を、ついた。今日の朝、おばあさんは笑って私を送り出してくれて、差し入れにパンを焼いてくれた。ただ私がこの場にいることに耐えられなくなっただけだ。無い物ねだりの悪い癖。私のせいで、空気が壊れてしまう。

耐えられなかった。

「そっか……じゃぁまた、今度誘うね!」
「パンの入れ物は、今度会ったときでいいよ」

その眩しい笑顔も今は直視できなくて、逃げるように、ごめんねと私はパンの入ったバスケットを麻奈ちゃんに押し付けて校門へ向かった。ごめん、ごめんね麻奈ちゃん。私はどうやらイイコではないらしい。もやもやと黒いわだかまりが私の中で渦巻いている。こんな気持ちを抱いたところで何も変わらないとわかっているのに。

それを振り切りたくて、考えたくなくて、私は走り出した。

走って走って、パン屋に戻る。私のかわりに店番をしてくれていたおばあさんがどうかしたのかと聞いてくるけれど、こんなわけのわからない感情、妬みや嫉みや自分への後悔、しかもとても個人的なことを話して心配をかけられない。

身分も証明できない子供を、この人は無償で助けてくれたのだ。一時的なものではない、それはそれは愛情を注いで扶養してもらっている。これ以上、迷惑をかけるわけにはいかないのだ。

「なんでもないです。心配をおかけしてすみません」
「それなら、いいんだけどねぇ……、悠里ちゃん。自分が壊れてしまう前に、悩みは誰かにお話しなさいよ?……きっと心が楽になるわよ」

にっこりと笑っておばあさんは私にゆっくりとそう言った。きっとおばあさんにはわかっているのだ。私が泣きたいということに。弱音を吐き出したいということに。

でも悩みを話そうにも、話せる人がいない。唯一の友達、麻奈ちゃんにも話せるわけがない。貴女に嫉妬しているのよ、なんて。

今の私は醜い嫉妬の塊だ。気を紛れさせるために働きたくなって、私はおばあさんにかわって店番をする。

目の前の道路を横切る車、街を歩く人たち、友達と遊ぶ学生。ついさっきまでは輝きはじめていた幸せな世界。今ではただの、光景でしかない。

「ししど……さん……」

さっきまで会っていたのに、私はまた彼に会いたくて仕方がなかった。彼に、もう一度……もう一度だけでいい。私が立ち上がれるように、頑張ったなという言葉を。そして、一歩踏み出せるように頑張れという言葉を言ってほしい。それだけで私は頑張れるような、気がするのだ。

「(いつもみたいに、また明日の朝会えるかな)」

まるで恋する乙女のように──いや、私はもしかしたらすでに恋する乙女なのかもしれない。私は明日を待ち望んでいた。

あぁ、世界はどうやら、まだ輝いているようだ。


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