昨日、興奮覚めぬままに麻奈ちゃんに朝の宍戸さんのことを話したら、宍戸さんは麻奈ちゃんの知り合いだという。すごい偶然だね、と笑えば、世間は狭いねと麻奈ちゃんは言った。

知り合いがまた、増えた。胸がほっこりとする。嬉しいんだ。

そういえば今日、麻奈ちゃんの学校で練習試合があるようで。麻奈ちゃんに連絡すると、ぜひ応援にきてほしいって言ってくれた。私は歩いて数分のところにある学校だし、と応援にいくことにした。

テニス部らしくて、部員は二百人を越える、らしい。だから、差し入れなんていらないよと麻奈ちゃんは言ったけど、それは気が引ける。レギュラーは七人。麻奈ちゃんを含めると八人。新作の試作品を持っていこうかな。私が初めてレシピをかいたものだから些か不安なのだけど。まぁ、焼いたのはおばあさんだし、きっと大丈夫だろう。

試作品をバスケットに入れて、地図を片手に学校へ行った。はずだった。

「で……っかい……」

これは学校か。あぁ、でも私立だし中学と同じ敷地……と考えても大きい。私のいた高校は一体何個入るんだろう。三個?四個?いや、もしかしたらもっと……。
ぽかんと口をあけていると、前から団体さまがやってきた。

「あっ、いたいた!おーい、悠里ー!!」
「……麻奈ちゃんっ」

団体さまの中に麻奈ちゃんがいることを確認した私は小走りで団体さまのところへいった。麻奈ちゃんの笑っている顔を見て、思わず顔がほころんでしまった。
麻奈ちゃんの周りにはたくさん男の子がいて、バリケードのようだ。

「この子があたしの友達。秋月悠里ちゃんだよ」
「麻奈から話は聞いている。俺は跡部景吾だ」

名前呼び。親しいんだなぁ。羨ましいと思う。男女の友情──愛情も含めて、仲良きことは素晴らしきかな。(妬ましいと思ったのは、気のせい)
麻奈ちゃんはたくさんの友達がいて、人気者のようだ。跡部さんや、むかひ?さんが私に話してくれる。あぁ、麻奈ちゃんって愛されてるんだね。さすが。優しくて可愛くて、同じ女の私から見ても麻奈ちゃんは眩しい人だもの。

「秋月、」
「あ、宍戸さん」

宍戸さんも、団体さまの中にいた。私と目が合うと笑って話しかけてくれる。優しいひと。胸がほわっと暖かくなるような気がする。

「なぁなぁ、秋月!!お前さ、どこの学校いってんだよ?」
「ばっ、岳人!!」

そういえば、とむかひさんは私に笑顔で聞いてくる。宍戸さんは事情(といっても学校に行っていないという事実)を知っているからか話を避けようとしてくれた。でもむかひさんが笑顔で聞いてくるうえに、今度は俺らが秋月に会いに行くぜ、と言ってくれたものだから私は困ってしまってうつむいた。

そんな私を心配したのか、どうかしたかと周りの人は聞いてくる。

「あの……私、学校行ってないんです」

昨日言った言葉をまた繰り返す。
大丈夫、大丈夫。

私がそう言うと、場の空気が凍ったのがわかった。空気を悪くしてしまって申し訳ない、だけどそれは遅かれ早かれ彼らと関わっていればわかってしまうことだ。どこかから情報が漏れてばれてしまうよりは、今自分が──たとえ辛くても、自分の口から伝えた方がいい。

「悠里はね、あたしと同じでここに親がいないの」
「っ、」
「でもね、頑張ってはたらいてるんだよ!!」

そうか、と呟いて皆さんは麻奈ちゃんの声に耳を傾けている。そして、私をおいて麻奈ちゃんはどんどん私のことをはなしている。やめてやめてやめて、やめてよ。勝手に話されたくないの。勝手に言われたくないし勝手に同情なんかされたくない。(恵まれてる貴女には、)

私を、おいていく世界に、私はただ言いたいことも言えずに立っているだけだった。言えないことがいけないのだ。快活に、誰とでも仲良くなれる麻奈ちゃんを憎いだなんて思っちゃいけない。妬ましいだなんて思っちゃいけない。

でも、でも。あぁ、本当は私、彼女が羨ましくてたまらないの。




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