真夜中に目が覚めたら自分の知らない町並みで、何が起こったのか私は理解できぬまま街を歩いていた。テスト前だから勉強しようとしていて、数学の問題集を開いたのはよく覚えている。大嫌いな数学、微分積分とかよくわからなくて……きっとそのまま眠ってしまったのだ。着ているのはそのときの部屋着であるし、第一こんな風景みたことがない。
これは夢だ。
「ゆ、め……そうだよ、これは夢だ……」
自分にそうやって言い聞かせても、この風の冷たさだとか裸足のままの足が感じるコンクリートの無機質さだとかすべて本物、で。
思わず涙がこぼれた。
どれだけ走っても自分の知ってる町並みは無くて、足の裏が切れて血が出てきて、寒さで凍えてしまいそうで、探しても探しても自分の居場所だったところはどこにも存在していなくて。
「……ここ、どこ……?」
呟いた言葉さえ、夜の見知らぬ街並みに溶けて消えた。
お母さん、お父さん、先生、友達のみんな、先輩、後輩のみんな、ここはどこですか。なぜわたしはここにいるのですか。なぜあなたたちはどこにもいないのですか。
なぜ、なぜ、なぜ。
ここは私の知っている街ではない。現実を知って絶望した。
悲しく辛くてやりきれない気持ちが、胸を支配する。
「……おはようございます、おばあさん」
それが、一週間のことで。あれから私は死ぬ気で住み込みのバイトを探した。高校でホームレス。どんな人に聞いても、私のいた街など知らないと言う。仕事が見つかる三日間のあいだにどれだけ罵声を浴びせられたかわからない。
ご飯だって、その三日間でどれだけ食べたか。拾ってもらってから、胃が縮んでしまったかのか中々ご飯も食べられなかったっけ。
どれだけ哀れんだ目で見られたかわからない。本当に死ぬかと、思った。警察に行っても、身元を証明できるようなものなんてないし、ましてや私の住んでいたところは存在しないようなのだ。不審者と思われてしまう。
絶望のなかようやく見つけられたのは、あるパン屋だった。
おばあさんが私を雇ってくれて、住まわせてくれた。朝から晩まで私は店番をしている。学校は、身分証明ができないからいくこともできない。知り合いがいない。友人もいない。辛かったけれども、生きていけることに感謝した。
毎朝毎朝、目が覚めるとそこは、私の生きた世界ではなくて。目覚める度に、落胆するのだけれど。