「失恋、決定的かぁ……」

麻奈ちゃんに手を振って別れたあと、私は一人落ち込んでいた。麻奈ちゃんはかわいい。黒目の大きいくりくりの目もふわふわの髪も桜色の唇も、そして仕草も。私なんかでは絶対に真似もできないかわいさがそこにはある。

宍戸さんは麻奈ちゃんのことが好きだ。それがわかっただけでも悲しかったのに、次は失恋だ。秒殺ノックアウト、TKO負け。

「……だめだ……へこむ」

確かに見込みはないと思ってはいた。でも、そんな簡単に諦められない恋だったんだ。たった三日、だけれども。確かに私は恋をしていた。

残念だけれども、お姫様は王子様と結ばれる宿命なのだ。村娘Cは王子様に憧れるだけ。

そんなへこんだ気持ちのまま店番をしてもう三日がたつ。宍戸さんは相変わらず朝にサンドイッチを買っていく。飽きないんですか、と聞いたら美味いからな、と答えてくれた。おばあさんに言ったらとても喜んでいた。

そんな中、もう閉店の時間である七時、明日の仕込みをしようと調理場に戻ったときだった。ピリリと私の携帯が鳴り、メールが来たことを知らせた。

誰だろう、おばあさんに迷惑をかけまいとアドレスを教えたのは麻奈ちゃんだけで、余計なメールもしていないはず。それに麻奈ちゃんだったら、3分クッキングの曲が流れるはずだ。これは麻奈ちゃんが自分で設定したもの。やっぱり麻奈ちゃんはすこしずれた天然だ。

「……知らないアドレス」

迷惑メールか、と開いてみて驚き、そのメールは宍戸さんからだった。私は驚いて、ピンポイントに足の小指を机の角にぶつけた。

「いぃっ!?」

しゃがみこんでジンジンする小指を左手で押さえる。視線は右手に握りしめた携帯に。メールだ。宍戸さんから、宍戸さんからのメールだ!!

緩む頬を引き締めるなんて今の私にはできない。ただ好きな人からメールが来るだけで嬉しくなる──恋している女の子はそんな生き物なんだから。

「“麻奈にアドレス聞いた。今時間開いてる?”か……」

メールの内容は宍戸ですのあとにそれだけ。漢字も間違っている。でも私は気にしない。

部活は終わったのかな、今空いてるかと聞かれたということは、空いているなら宍戸さんと会えるのかな。

おばあさんに聞いてみると、私がやるから行ってきなさいと言ってくれた。申し訳ない気持ちで一杯だ。明日は、きちんといつもより早く起きて、今日の分まで働こう。

宍戸さんに会える。それはとても嬉しい。もちろん、麻奈ちゃんのことは頭にある。でも、それでも会えるのは嬉しい。簡単に諦めるなんて私にはできない。想っているだけならいいでしょう?

「“少しだけなら空いてます”……と」

そしてまた数分。近場の公園にきてくれとメールが帰ってきた。麻奈ちゃんのことが頭をよぎる。

──うん。まぁ……ね──

そう答えた麻奈ちゃん。ごめん、ごめんね、麻奈ちゃん。私も宍戸さんのことが好きなんです。彼の優しさに救われたんです。

私は少し悩んだ末に、携帯を閉じて駆け出した。公園に、行こう。それが麻奈ちゃんの信頼を裏切ることになっても。

卑怯と罵ってくれても構わない。私は、宍戸さんのことがただ愛しくて、仕方がないのだ。



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