早く朝が来ないかな。こんなにも朝を願ったのは初めてだった。早く宍戸さんに会いたい。この胸のもやもやした醜い感情を消し去りたい。

麻奈ちゃんの言葉には、これっぽっちも悪意なんてない。あれは、言葉に詰まった私を心配して、言ってしまったことなのだ。彼女はそういう、世話焼きな優しい人だから。

だからこそ、その言葉によって嫉妬する自分が許せなくて、嫌になる。

考え事は連鎖するもので、夜、布団に入っても私はぐるぐるぐるぐる考えていた。どうして私はここにいるのだろうと、考えなくていいのに、どうしても考えてしまう。

ここにいることは、不幸なんかじゃない。私は、ここにいる。ここにいて、新しく人生をやり直せるの。みんなはそんなことできないのよ、ほら、幸せじゃない。ここにいていいの、いいのよ。

無理やりそう転換させてもぼろぼろとこぼれてくる涙は止まらなくて、私のいたあの場所がどうしても懐かしくなってしまって、私は結局一睡もしないまま朝を迎えた。

「いらっしゃいませ」

腫れてしまった目の周りを朝から開店時間までずっと冷やし続けて私は店番をしている。じんじんと冷やしすぎて目の周りがいたい。うう、やりすぎた。思わず瞼に手を当てる。すると、カランカランと乾いたベルの音がして、お客様の来訪を私に伝える。

「……おっす」
「……っ、おはよう、ございます」

宍戸さん、だった。あれほど会いたいと思っていたはずなのになんでだか気まずい。それは昨日私が急に帰ってしまったことによる、私が一方的に抱いている罪悪感のせいである。

気のせいか宍戸さんもどこか気まずそうにしていて、それを振り払うかのように勢いよく私の目の前に何かつきだした。

「き、昨日の……パン、うまかった」
「……ほんとう、に?」
「嘘じゃねぇよ!!」

手に握られていたのは、昨日私が麻奈ちゃんに押し付けたバスケット。私はそれを受け取って、よかったと呟く。おいしかった。あのパンを考えた甲斐があった。人が、喜んでくれているのだ。
宍戸さんはまたサンドイッチを選んで買っていく。その間に私と宍戸さんはいろいろ話をした──といっても、大体が麻奈ちゃんのことについてだ。私たちは同じ学校に行っているわけでもなければ、私が置かれている状況も状況だ。

宍戸さんは学校の話題を出してこない。私に気を使ってくれているのだ。申し訳ないと思う反面、嬉しかった。

私はきっと、初めて会った一昨日から宍戸さんに好意を持っている。愛情とはいかなくとも、淡い恋心ほどには。彼がここに毎朝通ってくれることが嬉しくて、話してくれることが幸せだ。

あぁ、ここにきて初めて心から幸せだと思ったかもしれない。私は彼に、救われているのだ。

「麻奈が、お前のこと心配してた」
「麻奈ちゃんが?」
「あぁ。お前を傷付けた、ってな」

苦笑する宍戸さんに、私は気付いていた。私は彼が大好きだ、でも彼の気持ちは私に向いていない。

脇役は所詮脇役なのだ。

「ありがとうございました」
「じゃ、また明日な」

この恋が叶うことなどないのだろう。

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