変なサングラスもとい迅さんは近界民への嫌悪感はないらしく、飄々と俺を案内してくれる。

「悪いね。帰らせられなくて」
「いえ、こうなることは理解できます。ソトからやってきたと知って、のこのこと家に帰すことは出来ません。私の国でも同じことをします」
「普通に話していいよ。カゲ達には普通でしょ?それに俺の後輩だし」
「俺のこと、ご存知でしたか」
「まぁ学校で見かけてはいた。っていっても、いちいち人の未来をじっくり見てはいなかったから、最近のカゲ達ので気が付いたんだけどね」

実は俺も顔だけはこの人のことを知っていた。何故なら同じ高校だから。学年が違うのとこの人は忙しいらしく俺とは関わりがなかったが、同級生たちが教えてくれた。なので顔だけ知っていた。大人しく付いて来たのもこの人だったからだ。だって理不尽なことしない人に見えたし。ただ、能力はしらなかったから、今さらっと聞かされてめちゃくちゃ驚いた。顔には出さないけど。

「未来?もしかして未来視出来るんですか?」
「え、気付いてたんじゃ」
「カマかけしました」

俺が堂々とそう言うと迅さんはびっくりしたように目を丸くした。その瞳を見つめ返すが、俺の未来はさっぱり俺には分からない。未来視とは、どのように写っているのだろう。

「……すごい度胸だね。一歩間違えば殺されてるかもしれないんだよ?」
「いざとなればさっさと逃げちゃえば良いですし、何よりこの国の様子見てればある程度強くでても殺されることはまず無いと分かります。同級生達を肉体的に痛めつけることも無いです。ボーダーは民間の企業ですしね」
「ハハッ、この国のことも、ボーダのことも、よく勉強してるってことね」
「いつだって自分を生かすのは情報です」

その国の切迫具合で余所者を許容できるかが変わって来る。この玄界は豊かだ。トリオンに悩まされることもなく、外からの襲撃もそう多くないため民間人の危機感もない。余所者の俺がひとり増えたところで、国の緊急性は高まらない。
俺があまりにもあっけらかんとしているので、迅さんは笑うばかりだった。そうして、おそらく一番聞きたかったであろうことを漸く口にした。

「ところで、何で未来視えないの?」

まぁ、そうくるよなぁ。驚くことも、戸惑うこともなかった。条件なく対面した相手の未来が視えるなら、俺の未来が視えないのはおかしいと思うだろう。俺はあの場にいたもう一人の能力を持った子について尋ねる。

「姿消していた彼はなんて言ってました?」
「何も聞こえ無いって。ーーー死んでるのかって」

なるほど、どうやって嘘を見抜いているのかと思ったが、耳がいいらしい。俺のカマかけだと気が付いているのかいないのか、迅さんは素直に教えてくれた。そうして情報だけもらった俺は、結局迅さんの問いには答えなかった。ーーーというか、まさしくそれが、全ての答えだからだ。

連れてこられた部屋をぐるりと見回す。ベッド以外、何もない。

「此処ですか?」
「そう。気付いてると思うけどカメラ付いてるから」
「はい、でしょうね」

得体の知らないものは監視するしかない。信頼できないものを放置しないのは当たり前だ。俺は特に拒否するつもりはなく、正当な理由だと思うので嫌がりもしなかった。
迅さんは俺が何も言わないことを責めるでもなく、淡々と告げる。

「何か必要なものあれば言って」
「はい、ありがとうございます」

最後に目を細めて見つめられて、嗚呼今未来を視ようとしてるんだなぁとぼんやり思ったが、彼に俺の未来を視せる術を俺は持っていなかった。

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