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俺が定住するつもりはない事を伝えるかどうしようかと悩んでいると、忍田さんは何か勘違いをしているのか話題を変えた。

「……これは、雑談だが」
「はい」

雑談という前置きが必要な事を言われるなんて、俺への苦情だろうか。しかし苦情があるとして、太刀川さんの私物持ち込みに関してしか心当たりはないし、それは俺のせいではない。俺は何も強請っていない。そこをハッキリさせておこうと意気込んだが、忍田さんに言われたのは違う事だった。

「君の同級生がかなり暴れている」
「暴れ…?」
「予告なくボーダーへ徴収され、帰宅した様子もなく、学校にも来ない。ボーダーに来ても姿は見えず、スタッフに聞いても知らないもしくは言えないの一点張りで、かなり心配している様子だ」

俺の同級生、ということは当真くんや影浦くんのことだろうか。確かに此処にいる状況だけ思えば心配してくれているのも分からないでもない。彼らとは一切連絡を取れていないし、スマホという連絡手段も監視の人に自ら渡してしまった。疑われることが面倒だったのでそうしたのだが、逆にあらぬ方向に疑いを持たせてしまったようだ。

「太刀川や迅、風間は此処をよく出入りしているだろう?元気なことは伝えるように言っているが、目で見るまで安心できないと。何故会えないのかと」
「みんな元気ですね」
「元気、元気で済めばいいが……、他はともかく影浦がだな……」
「誰か殴っちゃいましたか?」
「いや未だ。他の同級生達が止めている。が、いつまで持つか……同級生達も焦れているようで、そのうち止めに入らなくなりそうだ……現に当真は止めに入らない……」
「大丈夫ですか?胃薬飲んでくださいね」
「いや、そんな心配をしてほしいわけではないんだ」

案に止めてくれと言われているのだろうが、俺には無理だ。というか俺は何も悪くないと思う。俺は自分の身の潔白を示すことに必死なわけだし。
俺がちょっと無理ですねという言葉をどうやんわりと伝えるか悩んでいると、忍田さんはそれだけではないと、俺の顔を覗き込んだ。

「君のメンタルが心配なのもある。もう二週間もこの部屋から出ていないだろう」
「出入りしてくれる人がいますし、本も思う存分読めるので快適ですよ?」
「はは、そうか。でも自覚がないだけかもしれない」

確かに外出もできず一日部屋にいて、二四時間監視されることに苦痛を感じる人は多いだろう。だが俺はそこは平気な人間なのだが。何故心配されているのかと不思議に思ったが、そう言えば実年齢を伝えてないことに気がついた。高校に通っていたからそれぐらいの歳だと思われているのか。それならば子供扱いも納得だ。

「……A級には面会を解除しようかと思っている」
「近界民ですけど」
「君は君だろう。それに反抗的な態度もない。……何よりも影浦と当真を抑えるのは限界だ。逆に言えばあの二人さえ抑えてしまえば後は宥められる」

だんだんオブラート剥がれて、もはやストレートに告げられた。影浦くんと当真くんを止めろということらしい。俺が苦笑いを浮かべると、忍田さんはまた胃が痛そうな顔をした。

「彼等にはまだ君が近界民であることを伝えていない。A級に関しては近界民であることをカミングアウトすることを許可しよう」
「言わないのも自由ですか?」
「君に任せよう。だがA級は他より得られる情報が多い。直ぐに知れる。私が君の友だったのであれば、何処かで他人に聞かされるより、本人の口から聞きたいと思うよ」

あれ、だんだん俺の逃げ道塞がれてきているような。他人に聞かされるよりも本人の口から、と言われて俺はにこりと笑って先手を打った。

「忍田さん、今回の件について協力をします」
「!本当か!?」
「お礼は、同級生に会わせないようにしてください。接触したくありません。それでいいです」
「は」

そもそも同級生に会いたいと思っている、と思われていることが間違っている。
彼らが罰せられなかったのであれば良くて、それ以上は俺には関係ない。元気ならいい。俺のことも今は気になってもそのうちに忘れるはずだ。会わなければ全ての面倒事から回避できるので、会う事自体を俺は断固拒否した。

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