6 神殿をぬけると滝の裏手にでた。 寒い中凍りもせず水が流れ続けるそこからでれば、見慣れた遠征艇がとまっていた。 「太刀川さん!」 「風間さん!」 出水や菊地原達は無事そうで、ほっと息をつく。 向こうも酷く安堵しているようだ。 メティが太刀川の胸を押す。 「俺はここまでだから」 「メティ」 下ろしてほしいという意味だろう。 太刀川は優しく地面に下ろした。 雪に触れる素足が寒そうだ。 太刀川はメティの両手を握る。 「一緒に行かないか。ここより暖かくて飯もうまい」 メティ一人ぐらいなら連れていける。 餅もカレーも食べさせてやりたい。 「それに寂しくさせたりしない」 あんな場所に、ひとりで過ごさせたりしない。 10年、メティは何を思ってあの場所にいたのだろう。 太刀川と会話したときにあんなに嬉しそうだった。 太刀川がいなくなってしまえば、メティは誰と話すのだろう。 また10年後も一人であそこにいるのだろうか。 そんなの、寂しい。 メティが寂しくなくても、太刀川が寂しい。 しかしメティは首を横に振った。 ぎゅっと太刀川の手を握り返す。 「ありがとう。でもこの国もね、悪いところじゃないんだよ。ご飯もちゃんと美味しいし、暖かい場所もある。今はちょっと寒さが目立つけど」 そう言って笑うメティに、説得は無理だと悟った。 太刀川が母国に帰りたいように、メティの母国もここなのだろう。 「太刀川、急げ」 「分かってる」 風間の言葉に太刀川は頷く。 そしてメティに礼を告げる。ここまでスムーズだったのは、あの牢にメティがいてくれたからだ。 「助けてくれてありがとう」 「俺は人を見る目があるんだ」 するとメティはいたずらが成功したみたいな顔をした。 その言葉は太刀川がメティに告げた言葉だ。 なるほど、メティがここまで手を貸してくれたのは、先に太刀川が信じたからか。 「助けてメティがひどい目にあったりしない?」 「大丈夫だよ、俺に手を出せる人はいない」 捕虜を逃がしたとなれば普通死罪だ。よくて拷問。 そんなことをクイーンの素質があるメティにするとは思えないが、それでもないとは言い切れない。 この細い手が傷だらけになってしまうのは嫌だ。 メティはゆるく首を振る。 「蒼也くんには話したけど、こうみえてこの国の王子なんだ」 その言葉に今日一番の衝撃を覚えた。 そういえば一番初めにこの国の人と面会した謁見の間には大臣と名乗る男しかいなかった。 王政と聞いていたが不在だったため、王族はそういう外交の場には出ないのかと思っていた。つまりこの国は大臣が乗っ取っているのだろう。 「二人にあえて楽しかった。また会いたいから、ちょっと国内かき回して、運命に抗ってみるよ」 そう笑うメティの声は明るい。 難しくない話だと言っているように聞こえた。 そうか、牢内でメティに手を貸しているものの存在を思い、メティが孤独なわけではないということを知る。 いつか、また会えるだろうか。 太刀川は最後にぎゅっと忘れないようにその手を握って、そして名残惜しく離す。 「メティ、いつか餅食いにこいよ」 「それはあんまり…」 「なんでだよ!そこは喜んでとか言えよ!」 メティが笑って手を振る。 太刀川と風間は手を振り返して、踵を返して、歩き出す。 「また会おう、メティ」 「またなメティ!」 「うん、また。蒼也、慶」 また、いつか。 |