風間と恋人










今年は暖冬だと言うけれど、それでも冬は冬。寒いものは寒い。
俺は暖をとるためにホットコーヒーをマグカップに注ぎながら、冷蔵庫に貼ってあるカレンダーを見る。
今年はちゃんと忘れないぞ。
振り返れば風間くんはソファーに座ってテレビの子猫特集を見ていた。どっちも可愛いな。
俺はシンクに腰を預ける形で立つ。

「風間くん、クリスマスケーキなにがいい?」
「つぐみさんが作ってくださるなら、なんでも」

声をかければさほど夢中になっていたわけでもないようで、こちらを振り返る。
その返答に口をつけようとしていたカップから顔をあげる。

「え、俺が作るの?」
「違うんですか?」

俺が首を傾げると、風間くんも首を傾げた。
お互いに「えっ」といった表情だ。
俺は苦笑いを浮かべてコーヒーへと改めて口をつける。

「あ、いや、いいけど…折角だから買った方が特別感があるかなぁって」
「俺はつぐみさんのケーキがいいです」
「……そう?じゃあ作るけど…」

俺が作ると特別感がない気がする。
いつも仕事が煮詰まって憂さ晴らしにつくるお菓子は風間くんに消化いただいているので、まさかクリスマスケーキを所望されるとは思っていなかった。
むしろうんざりしたとか言われても可笑しくないと思うけれど。風間くんが甘いもの好きでよかった。

「何ケーキがいいの?」
「なんでも」
「ええええそれが一番困るな…」

折角だから風間くんの好きなものが作りたいなぁと思ったけれど、風間くんの好きなものカレーと牛乳しかしらないや…。
他はあんまり自己主張して好き嫌いしないから、改めて考えるとなると難しい。
風間くんが赤い目でじっとこちらを見る。

「何が作れるんですか?」
「オーソドックスなのはショートケーキ・チョコケーキ、タルトに、パイ、モンブラン、ティラミス、チーズケーキに……季節ものだとブッシュドノエル、シュトーレン…」
「すごいですね。想像以上でした」
「趣味拗らせてるからね」

お菓子だけはやたらと作れるようになってしまった。それを喜ぶべきなのか、悲しむべきなのか。男としては悲しむべきか。でも、もぐもぐ食べてくれる風間くんは可愛いから喜んでもいいかもしれない。
俺はコーヒーを片手に首を傾げて悩む。やっぱりクリスマスっぽいやつかなぁ。

「うーん……」
「任せて下さい、甘いものも好きです」
「え?全部作るの?」

ていうか、全部食べる気なの?
流石の風間くんもそれは無理なのではと驚くが、風間くんは割とガチっぽくて力強く頷かれた。
いやいやいや、頷かれても常識的にないから。二人でケーキいくつ食べるつもりよ。
ちなみに俺はどう頑張ってもケーキはホールの六分の一しか食べられない。

「じゃ、じゃあ小さいのをいくつか作ろうか。そうすれば沢山食べられるから」

このままだとクリスマスにフードファイトしかねない勢いなので俺はちょっと引き下がる。
ケーキといってもホールじゃないといけないわけではない。
カップサイズの、小さいのをたくさん作ればいろいろ食べれてお得感があるだろう。
そう提案すれば、こくりと風間くんも頷いてくれた。よかった、フードファイトは回避できた。
そこでぐうと風間くんのお腹が鳴った。

「……お腹が空きました」
「あ、うん、カレーあるよ。……あんまり美味しくないけど、まぁ普通だけど…」

ちょっとしょんぼりする風間くんに俺は一応鍋の中身の存在を思い出す。
なんとなく頑張ってみたけどやっぱり美味しくはならない。
美味しくないっていうか、普通?
レトルトの方がいっそ美味しい気がする。
俺が自信なさげにそういえば、風間くんは迷いなくじっとこちらを見て口を開いた。

「俺はつぐみさんの料理好きです」
「ありがとう」

それが本心だってわかっているので、ストレートな風間くんの言葉はちょっとくすぐったい。


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