日常A










口の中のものを咀嚼して呑み込んでから俺は続きを話す。

「って話をしたんだけど、25って君らからしたらおじさんだよね?」
「そんなことないと思いますけど」
「そうかなー…」

気を使ってくれているんだろうけれど、普通におじさんですねって言い切ってくれて構わないんだけどなぁ。
今日の昼に小南ちゃんとうさちゃんとした会話を話したが、烏丸くんからも同意は得られなかった。

「大人であって、おじさんではないです」
「んー」

なるほど、そういう解釈もあるのか。
でも大人っておじさんも大人だよね。少なからずお兄さんの歳はもう超えた気がする。
なんだったらもう結婚してても可笑しくないくらいで、いや予定はないからこの話は止めよう。

「というか、俺の分のマカロンはないんですか」
「あ」

痛いところをつかれてしまった。
誤魔化しようがないので素直に白状する。

「アハハー…食べつくされちゃった」

苦笑いを浮かべてごめんねと告げる。
二人に食べつくされたわけではなく、残りを適当に冷蔵庫に突っ込んでおいたら、次に見たときには無くなっていた。
数時間の間に何者かに食べられたようだ。
結構な数を作っていただけに俺も衝撃を受けた。

「まさか皆があの量を食べきるとは思わず」
「またですか」
「ごめんね、次はもっと作るようにするから」

最近深刻にお菓子が足らないのだ。作っても作っても無くなる。
一人の食べていい個数を制限しないといけないかもしれない。
でも「食べちゃだめなのか?」って陽太郎くんに言われると、良いよって言いたくなる駄目な25歳なんだよ…。
ストレス発散の域を超えてきていて、俺は溜息をついた。
スプーンでホワイトシチューを掬う。ブロッコリーに人参、ジャガイモ、色とりどりの野菜が入っている。
当然俺が作ったものではない。

「烏丸くんって料理上手だよね」
「そうですか?」
「うん、おいしい」

今日の料理当番は烏丸くんだ。
おいしくて自然と笑顔になるが、烏丸くんはじっと俺を窺う。

「つぐみさんは、だいたい誰のものでもおいしいっていうじゃないですか」
「手厳しいなぁ」

確かに誰の料理でもおいしいと言う。
けど嘘は一度も言ったことがない。
全部、本当に俺にとってはおいしいのだ。

「同じシチューでもそれぞれ味が違って、それぞれいいなぁって思うんだよ。俺は料理得意じゃないからね」
「……そういうところが宇佐美先輩の言う、罪なんじゃないですか」
「え、八方美人ってこと!?」
「違います」

本心でおいしいと思っているのにそれが伝わらないなんて。俺の人徳がないということだろうか。哀しい。
悲観していると烏丸くんが手元のシチューを見つめる。

「俺は」

今日は二人きりの晩御飯だ。
どうやら本部で何かあるみたいで、迅くんと林藤さんは陽太郎くんとうさちゃんをつれて本部へ行ってしまった。
小南ちゃんと木崎くんは防衛任務、新人達は本部で訓練。そういうわけで久しぶりに二人だ。

「つぐみさんの料理が食べてみたいです」

シチューから顔を上げて、烏丸くんは俺を見てそう言った。
そんなに溜めて言うような話じゃないと思うけれど、烏丸くんの中で何か悩む部分があったのだろう。
しかし俺としては全くノリ気にならない話題だった。

「それはちょっと…」
「お菓子作りと大差ないじゃないですか」
「あるよ。全然違う。料理はおいしくならない」

俺だって昔はチャレンジした。その結果、諦めたのだ。
美味しくならない。買った方が美味しい。じゃあ買えばいいや。という流れだ。
それ以来全く微塵も料理はしていない。
俺が絶対に嫌だと言うと、烏丸くんは妥協しつつも食いさがる。

「じゃあ今度一緒に作りませんか」
「……やだ」
「ダダこねないでください。花嫁修業だと思って」
「待って!ダダじゃないし、そもそも嫁じゃないし!誰の嫁だよ!」
「俺のですよ」
「諦めてなかった…!」

結局この話題になってしまった。
今日は穏やかに過ごせると思ったのに。
止めてくれる人がいないから、「嫁にはならない」という俺の主張と、「大丈夫です、いけます」と言う烏丸くんの謎の主張が平行線を辿る晩餐だった。





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