アフトクラトルの人


//大規模侵攻編。色々捏造。太刀川視点









新型の目を旋空弧月で切る。
動かなくなったのを確認し、捕らえられていたC級のトリオンキューブを回収する
呆気ない。手応えのなさにがっかりする。どうせなら噂の人型の顔くらい拝みたいものだ。
付近の新型は狩りつくしたため位置を移動しようとした太刀川の向かいに黒い穴が開いた。
増援の存在に身構える。

目を奪われた。
ゆるりとその穴から出てきたのは肩まである銀髪をもつ男だった。
曇り空の下でも一際目を引く。
太刀川は下唇を舐めた。

「あんた、アフトクラトルのやつか」

声をかければ男が振り返る。
目が合う。碧眼だ。
太刀川は眉をひそめた。
事前情報だと頭に角があると聞いている。しかしこの男の頭のどこにもそんなものはない。

「忍田さん、人型っぽいのと遭遇した。でも角がない」
『遊真くんが交戦している近界民も角がないと連絡が入っている』
「じゃあこいつも人型ってことで」
『構わない。排除しろ』

太刀川は口元に弧を描く。
人型との交戦を待ち望んでいた。
弧月を人型に向ける。

「太刀川、了解」

通信を切り、人型へと集中する。
手には何も持っていないように見えるが、迂闊には近づけない。
人型はじっとこちらを見つめている。西洋人形のように表情がない。太刀川の出方を窺っているようだ。

待つのは性にあわない。
太刀川は地を蹴った。人型は太刀川の弧月から逃れるように空へと飛んだ。
隙を狙う。

「旋空弧月!」

拡張した刃が人型へ真っ直ぐ伸びる。人型に当たる直前で何かに弾かれた。
太刀川は反射的にその場を飛び退く。

「っ」

先程まで立っていた場所に細く深く切れ目がはいっていた。
鋭利な刃物であることは明らかで、太刀川は弧月を構え直す。
瞬間、手元に衝撃がはしった。刃が交わる。
間近に迫った人型を、太刀川は押し返す。人型は予想していたのか軽やかに下がった。

弧月を握り直す。高揚感に震えた。求めていたのはこれだ。
太刀川は無意識のうちに笑みを浮かべる

今度は太刀川が動く。接近すると人型は目を細めた。太刀川の刃を、刃の側面で受け流し、足を出してきた。不意打ちをくらい腹に一撃。反動で民家に叩きつけられた。

「ってー…その顔で足出すって卑怯だろ」

人形みたいな顔をしているからお綺麗な攻撃しかしないかと思っていた。
瓦礫から身を起こし、太刀川は考える。
人型が手にしているものは日本刀に近い。先ほど受けた印象では刀は非常に軽かった。スピード重視だろう。現に旋空弧月を弾く速度だ。プラス体術のようだが、見た目から察するに力はない。押し切ればいけるだろう。
しかし引っかかりを覚える。
アフトクラトルの近界民は角により強化してるはすだ。けれど目の前の人型に角はない。
他の状況を聞く限り、角付きが4、無しが1。角付きに混ざるだけの何かがこの人型にはまだあると考えるのが妥当だ。

面白い。
太刀川は高揚により、血が沸くのを感じた。

地を蹴る。人型の間合いに入ると、人型は今度は刃で受け止めた。押し切ろうとしたところで、人型が突然押し返すのを止め体を引く。太刀川がバランスを崩したところで、人型が太刀川の右腕を狙った。退くのは得策ではないと判断し、太刀川は体を捻って左手で人型の肩を掴んだ。勢いのまま、太刀川は右手の弧月を振り上げた。
人型は体を捻って避けようとしたが、肩を太刀川に掴まれたせいで動きが制限され避けきることはできなかった。
刃が掠り、はらりと人型の髪が舞う。刃は身体にも当たったが、力が足らず堅いコートに弾かれた。しかし一撃は一撃。先ほどのお礼だ。
太刀川がにやりと笑うと、人型は少しだけ不快そうな表情を浮かべた。初めて見た表情の変化に、太刀川は驚き、そして喜んだ。もっと見たい。

太刀川はざっと地面を蹴り続けざまに弧月を振り下ろす。人型は真下から受け止める形になった。この体制なら先ほどのようにはいかないだろう。押し切ればいける。確信した。
一言も話さなかった人型が口を開く。

「……アヴェク・トワ」

楽器の様に耳障りの良い声だった。
うっかり聞き惚れそうになったが、そんな状況ではない。ぞくりと悪寒が走る。本能的に太刀川はその場を飛び退いて距離を取った。
人型の体を靄のようなものが包み込みだす。正体は不明だが、あれに触れない方が良い気がする。ブラックトリガーだろう。
これはいよいよ面白くなってきたなと笑みを深める。

調子が乗ってきた所で、邪魔が入った。

「しとど様、お遊びはその程度になさってください」

人型の背に黒いゲートが現れる。角付きの近界民がその奥に数人見えた。
近界民の女が声をかけるが、太刀川と交えていた人型は動かない。

「時間がありません」
「………」

靄は消えず、人型はじっと太刀川を見つめている。女が焦った声を出すが動く様子はない。太刀川と同じ感情を人型も抱いているのかもしれないと思うと、気分が良くなった。

「しとど」

ゲートから赤毛の男が呼ぶと、人型は息を吐いた。靄が霧散する。
今日はここまでのようだ。名残惜しいが深追いは出来ない。
くるりと背を向けて人型がゲートに入るのを見送る。
このまま黙って見届けるのは物悲しい気がして、太刀川は背に声掛けた。

「しとど」

人型はそう呼ばれていたので、太刀川もその名を口にした。
不思議な事に甘い響きに感じる。
閉まりゆくゲートで人型が振り返った。
その人形の様な顔に、太刀川は笑いかける。

「またやろう」

そう言うと、人型、しとどはふっと口元を綻ばせた。




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