当真のクラスメイト9 //恋人 人感センサーのついた照明が荒船の帰宅に合わせて灯る。 玄関で靴をぬいで、室内に足を踏み入れれば、リビングへのガラス戸がうっすら室内の灯りを透かしている。 照明ではない微かすぎる灯りに、荒船はため息をつく。 もう朝方の4時だ。夜勤明けの荒船はともかく、一般人は普通起きているはずのない時間だが。 相変わらず少しでも目を離せば不健康な生活をしようとする。 「ただいま」 「おかえりー」 リビングの扉を開けて声をかければ案の定返事が返ってきた。 寝落ちてしまってテレビがつけっぱなしだったとかなら可愛げがあるのだが、そんなものはこいつに期待してはいけないと荒船はもう身に染みてわかっている。 コートを脱いで椅子にかけ、頭から帽子を取る。 「お前まだ起きてんのかよ。つか電気つけろ」 「ホラーは夜に暗くしてやるもんなんだぜ?」 画面には心霊現象と思われる映像が流れており、手には黒いコントローラー。 荒船が留守なのをいいことに恐らくずっとゲームをしていたのだろう。 夜中に電気を消してゲームをするなんてどこの親に見つかりたくない小学生だよ。時々これが恋人だと思うと頭が痛いことがある。いや、こういうところも結局可愛いと思ってしまう自分もいて、そんな自分を時々目を覚ませとぶん殴りたくなる。 「いたっ」 「寝ろ」 八つ当たり交じりにその頭をはたくと、しとどは大げさに頭を押さえる。 ちょっと拗ねた顔をするが、後に引かないのがしとどだ。 ソファーの上でにこにこ笑って荒船を見上げる。 「夜勤おつおつ。今日も無事でよかったですな」 「……おう」 荒船が照れ隠しにぶっきら棒な返事をしてもしとどは慣れっこなので気にした様子はない。 むしろ、無邪気に見上げてくるので、荒船の方が居心地が悪いくらいだ。 ソファーに座るしとどの腹に手を回して小脇に抱える。 「ほら、寝に行くぞ」 「ぎゃん!」 コントローラを手にして猫のように体をまるめるしとど。 残念なことに本人の主張していた身長の増加はみこめなかったため、今なおしとどはチビのままだった。 本人としてはまだ成長期だと言っているが、さすがに無理がある。 「後生だからせめてセーブさせろください!」 必死にテレビの方を向こうとするしとどに荒船は時間をくれてやる。 セーブししとどがコントローラをソファに放ったのを確認してから、荒船はしとどをベッドに落とした。 ぐえと蛙がつぶれた声を出したがそれを無視して、一度リビングへと戻りテレビとゲーム機の電源を落とし、そして寝室のベッドへと荒船もなだれ込んだ。 抱き枕よろしくしとどを腕に抱え込むとしとどは苦しいのか腕の中で身じろぎをして顔を出す。 「ぷはっ、お風呂は?着替えは?」 「起きたらする。寝かせろ、眠い」 いつもは夜勤ぐらいでこうも疲れないが、あることのせいで本部でからかわれまくって精神的に疲れた。 荒船はさっさと寝ようと目をつむる。 「あらふね」 「なんだよ」 「べつに」 寝かしつけるようにしとどの頭を雑に撫でる。 しかしそれでは足らないようで、荒船の手をしとどはいじる。 指を曲げたり節をさわったり、気になって仕方ない。 「人の手で遊ぶな」 「だって眠くない」 「俺は眠いんだよ」 「俺は眠くないんだよ!……うひゃ」 反対の手でうなじに触るとしとどは身をすくめる。 いつも髪で隠しているそこは本人いわく急所らしい。 荒船はそこがわりと気に入っている。情事の最中しつこく触るくらいには。 荒船がそこを触るということはつまり。 「強制的に寝かせてやってもいいんだぞ?」 「あ、はい!すんません!ねむいです!」 「チッ…」 「舌打ち……こぇえ…!」 荒船としてはむしろウェルカムだが、しとどはいつも及び腰だ。なんか慣れない、こわい、そう言われると強行はできない。強行してもしとどの容姿的に犯罪の匂いがして罪の意識が高まり色々萎える。荒船には断じて幼児を甚振る趣味は無い。好きになった相手がたまたま幼児体型だっただけだ。 未だにごそごそ動くしとどに、荒船は目を閉じたまま口を開く。 「クリスマス、どこ行きたい?」 「……防衛任務じゃないの?」 「気の利くダチがいてよかったな」 「へ……?………そう言うことか!うわあああやめろ今度あった時にからかわれまくるだろ!!」 「俺はもう十分からかわれたからお前もからかわれてこい」 「ううううう」 クリスマスにかぶったシフトを交代してやると言ってきたのはにやにや笑った同級生達だった。しとどはクリスマスに拘るタイプではないが、それでも一緒にすごせるにこしたことはない。色々あったが、恋人なわけだし。 有り難く交代してもらったが、そのかわり盛大にからかわれた。最初は変わってもらった恩を感じ黙って受け入れたが、しつこいので最後のほうは怒鳴って追い払ってやった。それでもまだにやにやしていたが。 クリスマスのあとに顔をあわせれば根掘り葉掘りきかれるのが予想できる。今から溜め息しかでない。 からかわれるのは荒船だけではなく、しとどもだ。打てば響く、反応がいいしとどはさぞかし弄られるだろう。 しとどもそれは予想したのか非常に嫌そうにうなっている。しかしクリスマス自体は満更ではない様子で、荒船はそれに満足して本格的に眠る体勢にはいる。 「寝る」 「うん、おやすみ」 しとども気が済んだのか大人しくなり、荒船は小さな背中を撫でて意識を落とした。 |